藤井聡太のAI(人工知能)超え


 藤井聡太の指す一手が、
時々、「AI超え」とか「神の一手」とか呼ばれ、
話題になる。

 藤井聡太が指した手を、
AI(人工知能)が、
・4億手まで読んでも
  候補に上がらなかったのに、
・6億手まで読んだら、
  最善手として評価された、
と言う具体例も有る。

 だから、
・どんなにAI(人工知能)が進歩して、
  人間の何千倍もの速さで手を読み、
    決して間違った手を
     指さないようになっても、
・人間が指す将棋の面白さは、
  決して損なわれない。
と言われる。

 そんな、藤井聡太の
AI超えや神の一手を紹介する。



<2021年3月23日の「4一銀」>

・2021年3月23日に行なわれた、
・第34期竜王戦2組ランキング戦準決勝
  藤井聡太VS松尾歩八段で、
・将棋界の歴史においても、
  将棋AIの歴史においても、
   長く語り継がれる一手、
を、藤井聡太が差し、
プロ棋士を始め、AI開発者も、
感動と、喜びの声を上げた。


 それは、
藤井聡太が先手の、
57手目で発生した。



 松尾八段は、
54手目に、3七銀で、金を取った。



 それに対して、藤井聡太は、
55手目で、
角を3七角と下げて、銀を取った。



 松尾八段は、
4四角を、8八角成に進め、
銀を取った。



 この場面では、誰もが、
8四飛車で、相手の飛車を取りに行く。

 その代わり、相手も、
8八馬を、7八に移動させ、金を取る。



 ところが、藤井聡太は、
59分の長考の末、
持っていた「銀」を、4一の場所に打ったのだ。


 実は、この「4一銀」は、
対戦を実況中継していたabemaTVの、
将棋AIソフト「SHOGI AI」が、
最善手として表示していて、
観戦者は、予め知っていた。

 でも、その手は、
あくまでもAIだから見付けた手で、
「4一銀」などと言う手は、
プロ棋士なら有ることは分かっても、
100人居たら100人が選らばない。

 藤井聡太も、
「8四飛車」を直ぐに選ぶと、
誰もがみんなは、そう思ってた。

 ところが、藤井聡太は、
予想を裏切って、長考をし始め、
59分後に、駒台に有った「銀」を取り、
4一に銀を打ったのである。


 因みに、
この「4一銀」の手の意味を考えると、
・デメリットは、
  相手に、「銀」を只で取られ、
   相手に、その「銀」を使われ、
    損をするだけの手である。
・メリットは、
  相手の金で、銀を取らせ、
   相手の王様の左側に、
    銀と金を縦に並ばせ、
     逃げ道を塞がせる。
と言うことになる。


 「4一銀」を打つことで、
王様の逃げ道を防いだとしても、
その後の攻めが続かなければ、
単に、只で相手に銀を与えただけ、
になる。

 でも、
天才藤井聡太は、それを選んだ。


 その時、
プロ棋士たちは、
”これは、
  「藤井の4一銀」として、
    後世に伝えられる名手である。
”鳥肌が立った。”
”この手が指された瞬間に立ち会えて、
  幸せだった。”
”人間が指せる手ではない。”
”人間が、この手を指してはいけない。”
”この手を理解するには、
  5時間では足りない。”
などと、
驚きと賞賛と感動の言葉を並べた。

 ABEMATVの将棋中継を観てた
将棋好きのファンたちも、
AIソフトが最善手と示した「4一銀」を、
藤井聡太が打った瞬間、
”来たー!”
”化け物か!”
”鳥肌立った。”
”歴史的瞬間に立ち会った。”
などと書き込みをして、大騒ぎになった。


 では、
藤井聡太が打った「4一銀」は、
AI時代と、どのような関わりを持つのか。

 「SHOGI AI」の開発責任者「藤崎」氏は、
”AIで将棋の研究をする棋士は、
  AI的な指し方になってるのではないか?”
と述べている。

 また、「藤崎」氏は、
”AIが、人間を追い掛け、遂には追い越した。
  そして、人間は、AIに勝てなくなった、
   と言われて来た。”
”しかし、今回の藤井二冠が、
  AIにしか打てない「4一銀」を打ち、
   より良い共存の関係が進んだ気がする。”
とも言っている。


 ただ、何度も書くが、
将棋ファンが気を付けなければならないのは、
将棋AIソフトが示した最善手を、
プロ棋士が指さない場合、
”あーあ、駄目だなあ。”
”力が無いなあ。”
”最善手を見付けられないんかよ。”
などとディすることだ。

 そんな人間は、
テレビ観戦をしなきゃ良いんじゃない?



<2020年8月20日の封じ手「8七飛車成り」>








 藤井聡太は、
2020年8月19日に、
木村一基王位タイトル挑戦で、
第4局目に望んだ。

 そして、後手番だった藤井聡太が、
一日目の「封じ手」を決め、紙に書いて、
翌日の二日目まで誰にも見られないよう、
保存されることになった。


 その封じ手を決める時、
藤井聡太は、
20分を超える長考を行ない、
翌日、開封された手が、
「8七飛車成り」
だったのである。

 勿論、
対局を注目していたプロ棋士たちも、
「8七飛車成り」
の手が有ることは分かっている。
 と言うよりも、
将棋の素人でも、見付けられる手だ。

 しかし、普通は、誰も選ばない。
 常識外の手だからである。

 と言うのも、その手は、
銀を手に入れられるけど、
飛車を取られる、
と言う、大損の手だからである。

 素人の私の例えなので、
間違えても許してほしいが、
・30万円を貰って、100万円を渡す、
・刀を貰って、ピストルを渡す、
・普通車を貰って、
  ポルシェやフェラーリを渡す、
ようなものだからである。

 だから、
アマチュアは勿論、プロ棋士でも、
「2六飛車」
と、一旦は、飛車を逃がす手を選ぶ。


 ところが、藤井聡太は、
「8七飛車成り」
を選び、
銀を取って飛車を捨てたのである。

 これには、
解説者を務めていた
ひょうきん者の橋本八段も、
”想像を絶する!”
”意味が分からない。 
 将棋を考えるのが嫌になる。”
と呆れていたからねえ。


 結果、これ以降は、
藤井聡太がグングンと攻め始め、
「千駄ヶ谷の受け師」
の異名を持つ木村一基王位も
耐え切れず、投了してしまった。


 なお、
この「8七飛車成り」は、
AI(人工知能)も、100億手を読んで、
最善手と考えていたようだ。

 では、
何故、藤井聡太は、
「8七飛車成り」の手を選んだのか?

 藤井聡太は、
”飛車を逃がしたとしても、
  その後の活用の方法が見えなかった。”
”それよりも、後で飛車を取り戻し、
  活用する方を選んだ。”
”勝負しようと思った。”
と答えている。

 昔から、
「肉を切らせて、骨を断つ」
と言う言葉が有るが、
ここと思ったら、
躊躇わずに切り込んで行く、
その藤井聡太の将棋を、
プロ棋士たちが、
”観ていて、ワクワクする将棋”
と言っている。

 プロにそう言わせるんだよ。
 プロに。



<2020年6月28日の3一銀打ち>



 藤井聡太は、
2020年に、初タイトルを賭けて、
渡辺明棋聖に挑戦。

 6月28日の第2局目に、
「3一銀」
を打ち、大きな話題になった。

 この「3一銀」は、
守りの為に打った凄く地味な手で、
持ち駒を減らす、
ちょっと勿体無いと思われる手であった。

 だから、
解説者も、芳しくないコメントをしていたし、
対戦を実況中継していた
インタネット番組のAI(人工知能)も、
候補手の5番以内に挙げて来なかった。

 因みに、
AI(人工知能)は、
4六桂馬を、第一候補に上げていた。


 ところが、
藤井聡太が「3一銀」を打ったことで、
その意味をAI(人工知能)に
再確認させたところ、
驚愕の事実が発覚。

 世界コンピューター将棋選手権で優勝した
将棋ソフト「水匠2」開発者で
弁護士の杉村達也さん(33)が、
”「水匠2」に4億手読ませた段階では
 5番手にも挙がらないが、
  6億手読ませると、
   突如最善手として現れる手だった。”
と述べて、
その数字の凄さに、世間が騒いだものだ。

 そして、「藤井七段がAI超え」と
話題になったのである。


 勿論、天才中の天才であると言っても、
人間の藤井聡太が、20分ほどの時間で、
6億手を読んだわけではない。

 対局の流れの中で、
持っている感覚で、
見付け出したのだろう。

 それ故、藤井聡太は、
「AI超えの棋士」
と呼ばれる由縁である。


 なお、藤井聡太が現れるまで、
「神武以来の天才」
と呼ばれて来た加藤一二三九段が、
とても素晴らしい言葉を、
SNSで発信している。

 それが、
”コンピュータソフトが
  6億手読み切った所で
 最善手として提示される異次元の一手を、
  藤井聡太七段は実戦譜に置いて
   僅か考慮時間23分にして指したことが
    話題になっていますが、
 AIを過大評価する一方で、
  天才棋士の頭脳のきらめきやひらめきを、
   そもそも軽視しすぎの世の中ではないか
    と歯痒い想いがする。”
である。

 人間にも勝ってしまうほど
AI(人工知能)が進歩しても、
人間の指す将棋が愛され注目されるのは、
正に、この言葉に有るねえ。



<2018年6月5日の飛車切り>

 藤井聡太は、
2018年度の竜王戦では、
 5組で戦っており、
  5組代表で決勝トーナメントに出場する
   代表決定戦を、
    石田直裕五段と戦うことになった。


 で、どちらかと言うと、
石田五段の方が優勢の中。

・石田五段が、
  藤井聡太の銀と金が縦に並んでいる頭に
   歩を打った時、
 AIは、
  「銀が上がって歩を取ってはいけない。」
    「銀が上がって空いたスペースに、
     また歩を打たれるから。」
 と判断していた。



・しかし、藤井聡太は、銀で歩を取ってしまった。
・すると、石田五段は、
  AIが判断したように、
   銀が上がって空いたスペースに歩を打ち、
    金を取りに行った。





・すると、AIは、
  「金が上がって歩を取りに行ってはいけない。」
   「金が上がると、飛車と金が斜めに並び、
     その間に銀を打たれ、どちらかが取られる。」
 と判断した。



・しかし、藤井聡太は、金を上げて歩を取り、
  石田五段は、銀を打って、飛車か金を取りに来た。
   AIの判断したとおりになった。



 伝説のAI(人工知能)超え「8六飛車」は、
攻撃に転じ、劣勢を逆転し、
勝利に向かう一手であった。



 相手が、歩を打ち、飛車を止める。



 藤井聡太は、横に動き、銀を取る。



 相手は、再び歩を打ち、飛車を止める。
 普通は、飛車を逃がす。



 それなのに、
藤井聡太は、7七飛車と、突っ込む。
 当然、金で飛車を取られるのに。



 やっぱり飛車を取られた。



 それに対して、藤井聡太は、
8五桂馬と、金を取りに、桂馬を上げる。

 それに対して、
相手は、金を上げて避ける。



 藤井聡太は、
金で桂馬を取られるのを無視して、
玉将の頭に歩を打つ。



 玉将が上がって、歩を取る。



 藤井聡太は、再び、玉将の頭に歩を打つ。
 上がって歩を取れば、
桂馬で玉将を取られるので、
8八玉将と逃げる。



 藤井聡太は、
玉将の横に銀を打つ。



 相手は、角を下げて、銀を取る。



 藤井聡太は、
歩で角を取り、歩を成らせる。



 相手は、成り金(ふ)を、玉将で取る。



 藤井聡太は、桂馬で王手を掛ける。



 相手は、金を横に動かせ、桂馬を取る。



 藤井聡太は、
玉将の頭に銀を打ち、王手を掛ける。



 相手は、桂馬を上げて、銀を取る。



 藤井聡太は、
桂馬を上げて成り金にし、王手を掛ける。



 相手は、玉将で成り桂を取る。



 藤井聡太は、
6六角打ちで、王手を掛ける。



 相手は、玉将を横に逃がす。



 藤井聡太は、7七金打ちで、王手を掛ける。

 これで、相手は、投了した。

 怒涛の攻めで、劣勢から勝利した、
伝説の神の一手である。



 以下は、
素人に向けた詰めまでの行程で、
プロは、先が読めるので、
早めに投了するのである。