「オオカミさま」と「リオン」


 「こころ」が、「願いの鍵」を使い、「願いの部屋」に入り、
たった1つだけ叶えられる願いを、
  ”どうか、「アキ」を助けてください。
   「アキ」のルール違反を、無かったことにしてください。”
 と頼むことに使い、みんなは救われた。


 しかし、願いが叶った今、みんなは、記憶を失い、
自分たちの暮らしている時代に帰って行かなければならbない。
 それが、「かがみの孤城」のルールだから。



<「リオン」の疑問>

・みんなが、鏡を通って、それぞれの家(時代)に帰って行く。
 「オオカミさま」は、
  ”終わった。”
 と、一人で静かに息を着く。

・その時、
  ”姉ちゃん”
 と呼ぶ声がして、弾かれたように「オオカミさま」が顔を上げると、
 引き返して来た「リオン」が立っていた。
・「リオン」が、
  ”姉ちゃんだろう。返事してよ。”
 と呼び掛けるが、「オオカミさま」は、顔を背け、
  ”帰れなくなるぞ。”
 と突き放す。

・「リオン」は、
  ”3月30日の城の閉まる日は、姉ちゃんの命日だ。”
  ”本当は、「アキ」があんなことにならなければ、
   鍵を見付けて、みんなを説得して、
    「姉ちゃんを帰してくれ。」
   と頼むつもりだった。”
  ”この城、姉ちゃんが持ってたドールハウスそっくりなんだ。”
  ”城に招かれたみんなは、7年ずつ離れてる。”
  ”オレと姉ちゃんの差は、7歳なんだ。
   だから、1999年の誰も居ない年は、姉ちゃんだろう。
   雪科第五中学校に行きたかったけど行けなかった子ども、
   その年は、姉ちゃんの年なんだ。”
 と話し掛けるが、「オオカミさま」は、何も答えない。


<「実生」の願い>

・お互いが大好きだった姉「実生」と「理音」。
 もっと一緒に遊びたかった二人。
 「実生」は、自分が死ぬ時に、
  ”もう少しだけ、弟と過ごさせてください。”
 と神様に願ったのかも知れない。

・そして、その願いが叶えられ、「実生」は、
 ドールハウスをモデルに「かがみの孤城」を作り、
 中学校に行きたくても行けない子どもたちを招き、
 自分たちの力で、問題を解決させようとしたのだろう。
 そして、この一年間、城の中で、大好きだった弟「理音」と、
 不思議な交流を楽しんで来たのだろう。

・「実生」は、亡くなる時に、
  ”「理音」、怖がらせちゃってごめんね。”
  ”だけど、楽しかった。”
 と言った言葉は、
  ”弟に、病に苦しむ姿を見せたことを、謝っていた。
 と思ってたが、そうではなく、
  ”オオカミに喰われるような目に遭わせたことを謝っていた。”
 のだろう。

・「実生」が、
 6歳か7歳の頃の姿を選んで「オオカミさま」になったのは、
 まだ病気にならずに、髪が長く、ふっくらとした手の、
 生き生きとしていた頃だったからだろう。
 その頃の姿を選んで、「理音」に会いに来てくれたのだ。
・実際、城の中での「実生」は、自由で生き生きしていた。
 みんなを翻弄しながら、楽しそうだった。


<「理音」の決意>

・「理音」は、「実生」に、
  ”会いに来てくれて、嬉しかった。”
  ”オレ、自分のやりたいことはちゃんと言うし、
   嫌なことも、ちゃんと嫌と言う。”
 と語る。
・母が、「理音」をハワイの中学校に入学させたのは、
 「実生」を失った悲しみで「理音」を遠ざけただけでなく、
 「理音」の才能を伸ばしてやろうと言うのも事実だろう。
・母が、「理音」に、
  ”帰りたい?”
 と尋ね、「理音」が、
  ”本当は、日本に帰りたい。”
 と言った時、「理音」を抱きしめた母が、
  ”分かったよ。”
 と言ってくれた。
 言う前から諦めて言葉を呑み込んでいた「理音」だったのだ。


<最後の願い>

・何も答えない、もう帰って来ない姉。
 それでも、会えて良かったと思う「理音」は、
  ”あと1つだけ、お願いを聞いてくれない?”
  ”覚えていたいよ。”
  ”オレ、覚えていたいよ。みんなのこと、姉ちゃんのこと。”
  ”姉ちゃんは無理だって言うかも知れないけど、それでも。”
 と声を掛ける。

・長い時間待っても、「オオカミさま」は、何も答えない。
 困らせるつもりは無い「理音」が、
 鏡の中に手を伸ばし、城から去ろうとする時、
  ”善処する。”
 と、「オオカミさま」の声が聞こえた。

・後ろを振り返った「理音」だが、
 大広間や城の輪郭が消えて行く。
・「オオカミさま」の姿も遠ざかるが、
 「理音」の方を向いた「オオカミさま」が、
 狼面をゆっくり外し、「理音」に微笑んだように見えた。


<最後の願いが叶った?>

・2006年4月7日。
 「安西こころ」にとって、
 雪科第五中学校の2年生の1学期始業式の行なわれる日。
・母が、
  ”お母さんも、一緒に行こうか?”
 と心配するが、一人で学校に向かう。
・「東条萌」は、
  ”たかが学校。”
 と言った。
  ”闘うのが嫌なら、闘わなくても良い。”
 と言ってくれた人も居た。
 だから、学校に戻ってみよう、と思った。

・学校の門に着いた時、
  ”よぉ”
 と声が聞こえた。
・顔を向けると、自転車のペダルに足を掛けた男子が、
 こっちを見ていた。
・その生徒は、雪科第五中の学ランを着て、
 刺繍の名札には、「水守」と書かれていた。

・「こころ」は、その名前を知っている気がして、
 目を見開くのだった。