喰われたみんなの事情
「かがみの孤城」に招かれた雪科第五中学校の7人は、
「願いの部屋」に入れる「願いの鍵」を見付けようと、彼方此方を探し回った。
その時、彼方此方に「×」印が着いているのを発見していた。
しかし、その意味は、誰にも分からない物だった。
しかし、今こそ、その意味が明らかになる。
「東条萌」から借りた『七ひきの子ヤギ』の絵本を胸に、
「安西こころ」が、仲間を助けに、「かがみの孤城」に飛び込んだことから。
<七人の事情 マサムネの場合>
・壊れた鏡の下半分から「かがみの孤城」に飛び込んだ「こころ」が、
最初に辿り着いたのが食堂だった。
・その時、「マサムネ」が、
”台所の戸棚の中に、「×」印を見付けた。”
と言っていたのを思い出した。
・「こころ」が「×」印に振れた瞬間、もの凄い衝撃を受け、
「こころ」は、学校の机の前に座っていた。
・机には、文字が書かれていて、その文字は、
”ハラマサくんは嘘つきです。”
”特技ーーー自慢話。”
”死ねば”
と書かれていた。
これは、「マサムネ」の記憶なのだ。
・「保健室」に「マサムネ」が泣きながら座っている。
そして、
”あいつら(孤城の仲間たち)が、来ないわけがない。”
と泣きじゃくっている。
・その「マサムネ」の背中をさすりながら、
”マサムネ君のお友達には、きっと何か事情があるのよ。”
と慰める人がいる。
「喜多嶋」先生だった。
<×印の意味>
・「こころ」は、絵本を確認する。
”とんとんとん。開けておくれ。お母さんだよ。”
と子ヤギたちを探して、次々と食べるオオカミ。
・一匹目は、「フウカ」が隠れた、机の下。
二匹目は、「リオン」が隠れた、ベッドの下。
三匹目は、「ウレシノ」が隠れた、暖炉の中。
四匹目は、「マサムネ」が隠れた、台所の戸棚の中。
五匹目は、「アキ」が隠れた、クローゼットの中。
六匹目は、「スバル」が隠れた、風呂の洗面器の下。
七匹目は、オオカミが見付けられなかった場所。
・「かがみの孤城」の彼方此方に着けられていた「×」印は、
子ヤギたちが隠れ、見付けられて食べられた場所だったのだ。
・そして、「×」印に触ると、それぞれの隠された不登校の事情が
「こころ」の心に入って来るのだった。
<七人の事情 ウレシノの場合>
・暖炉の中に「×」印を見付け、触ると、
「こころ」の頭に、「ウレシノ」の記憶が流れて来る。
・1月の始業式。
「マサムネ」の為に登校したのに、仲間が誰も居ない。
仕方無く、おにぎりを食べていると、生徒が馬鹿にする。
・その時、母が迎えに来てくれた。
そして、「喜多嶋」先生も。
「ウレシノ」は、とても満たされた気持ちでいた。
・「アキ」が5時になっても鏡の前に居ないので、
必死に捜したが間に合わず、慌てて鏡をすり抜けるが、
城に引き戻されてしまい、オオカミに襲われる。
<七人の事情 スバルの場合>
・お風呂場に入り、浴槽に置かれた洗面器をずらすと、
「×」印が現れ、触ると、「スバル」の記憶が流れて来る。
・「スバル」と兄は、両親の元を離れ、祖父母の家で暮らしている。
・兄も、好き勝手なことをしていて、祖父は、
”お前ら兄弟は、学校も行かん、働きもしない。
父親に似て、どうしようもない。”
とボヤく。
・兄の彼女の友達と言う女の子と、セックスをした。
その女の子は、
”女の子は、初めてした時は血が出る。”
と言ってたけど、その時は血が出なかった。
・父親がくれた物で気に入っているのは、
「スバル」と言う名前と、ウォークマンだけだ。
・「スバル」は、城に来て仲間と触れ合えるのは、快い。
・「スバル」の生活には、城に集まる仲間が話している
フリースクールも無いし、「喜多嶋」先生も居ない。
・自分がどうなったって良いと思っているが、
城に集まる仲間を観て、
”それぞれの為に必死になってくれる人が居る人生って、
贅沢だなあ。”
と思って観ている。
・オオカミに襲われて喰われる時、「スバル」は、
”まだ死にたくない。”
”みんなにも、まだ死んでほしくない。”
と思っている自分に気付くのだった。
<七人の事情 フウカの場合>
・「フウカ」の部屋に入り、机の下の「×」印を触ると、
「フウカ」の記憶が、「こころ」の頭に流れて来た。
・「フウカ」は、天才的なピアノの腕を持っており、
母親は、学校を休ませて、京都の祖母の家に行かせ、
京都の有名なピアノの指導者に学ばせる。
ピアノさえさせていれば良いと考え、教師たちと揉める。
・大切な指を怪我させるスポーツなどもさせてもらえず、
同級生たちから、どんどん離れて行く。
・母子家庭で、母は、昼も夜も働く続け、
「フウカ」のピアノにだけ、夢を掛けていた。
・しかし、中学校に入り、2年生の夏のコンクールで、
「フウカ」は、上位入賞出来ず、「圏外」の結果を取った。
それ以来、母は、「フウカ」に過度の期待を持たなくなり、
”ピアノに行っても学校に行っても良いよ。”
と言う感じになった。
・だが、今更学校には行けない「フウカ」は、
「心の教室」に行ってみた。
・「心の教室」には、「こころ」や「ウレシノ」が何度も口に出す
「喜多嶋」先生が居て、優しく声を掛けてくれる。
・そして、雪科第五中学校へもよく出入りしているので、
「フウカ」の不登校も知っていて、
”学校には戻れない。勉強だって着いて行けない。
ピアノも、続けて良いか分からない。”
と言う「フウカ」に、「喜多嶋」先生は、
”じゃあ、勉強しようか。手伝うよ。”
”勉強は、やればやっただけ結果は出るし、
これから何をするにしても無駄にはならないから。”
”両方、やろう。”
と言ってくれた。
・それ以来、「フウカ」は、「かがみの孤城」の部屋に閉じこもり、
「喜多嶋」先生から出された、中学1年生の宿題をやっている。
もう直ぐ、2年生のものに追い付くことが出来そうだ。
「喜多嶋」先生のことや勉強していることを話したら、
「アキ」も、
”私もやろうかな、勉強・・・”
と言ってくれ、「フウカ」も、
”一緒にやろう。”
と返す。
・それなのに、「アキ」が5時を過ぎても城から帰らず、
みんなを危険にさらす。
・その「アキ」の身勝手さに、言葉にならないほどに怒る。
しかし、一緒に過ごしたあの子が消えるなんて駄目だ。
”こころ、願いの鍵を探し出し、みんなを助けて!”
と、「フウカ」は叫ぶ。
<七人の事情 リオンの場合>
・「フウカ」の部屋の隣が「リオン」の部屋だった。
部屋に入り、「×」印に触ると、「リオン」の記憶が入って来る。
・「リオン」の姉「ミオ(実生)」は、不治の病に罹っており、
本当は小学6年生なのに、ずーっつと入院生活だ。
・「リオン」は姉「ミオ」が、誰よりも大好きだ。
・「リオン」は、病院の姉を訪ね、
「七ひきの子やぎ」を読んでもらうのが楽しみだ。
・しかし、母は、一番愛する「ミオ」を失うのに耐えられず、
”何で、実生なの?”
”あなたの元気過ぎる元気の半分でもミオに有れば良かった。”
などと、「リオン」に当たる。
・「ミオ」の病気が発生した時、「リオン」を妊娠中で、
その後、赤ん坊の「リオン」の世話などで、
「ミオ」に充分なことがしてやれなかったことが、
母の後悔に繋がっていて、「リオン」を疎んじるのである。
・「リオン」は、サッカーの技量が優れていて、
色々なチームから、スカウトされている。
・そんな中、母が、ハワイのチームのパンフレットを持って来て、
”貴方の可能性が伸ばせると思って。”
と、寄宿舎の有るチームを勧める。
・みんなと一緒に雪科第五中学校に入学し、
同じクラブチームでサッカーをやりたかった「リオン」だが、
”母は、僕に遠くに行ってほしいのだ。”
と気付き、受け入れる。
・そんな「リオン」の部屋の鏡が光り、
「かがみの孤城」に来られて、みんなと出会う。
・ハワイと日本の時差を利用して、
ハワイの夕方になってから、日本にやって来ていた。
・「アキ」が5時を過ぎても城から帰らず、
それぞれ、自分の家に帰りかけていたみんなが、
「かがみの孤城」に引き戻される。
・どうしようもないと悟った時、「リオン」は、
”こころ、頼む。「願いの鍵」を捜してくれ。”
”「オオカミさま」は、多分、「七ひきの子やぎ」の狼だ。”
と叫ぶ。
<七人の事情 アキの場合>
・「こころ」は、最後の部屋、「アキ」の部屋に入り、
クローゼットの「×」印に触る。
途端に、「アキ」の記憶が流れ込んでくる。
・「アキ」の母親は、「アキ」に、
”お前を妊娠しなければ、お前の父親とは結婚しなかった。”
と言う。
・今の父親は、母の再婚相手で、血の繋がりが無く、。
酒に酔った時、「アキ」を襲ったことが有る。
・バレーボール部に入っている「アキ」は、
運動能力が高く、他の部員の技術に不満で、
それを指摘しすぎて、部の中で嫌われてしまい、
結局は、自分がバレーボール部を辞めることになり、
学校へも行けなくなった。
・「アキ」のお祖母ちゃんは、面白くひょうきんで、
みんなから否定される「アキ」を受け入れてくれる
唯一の存在だった。
・「アキ」が赤く髪の毛を染めた時も、
”きゃっつ、いい色”
と笑ってくれた。
・いつも、お小遣いをくれた。
・テレクラで知り合った23歳の「アツシ」君を紹介した時も、
おせんべいやお茶などを出してくれた。
・お祖母ちゃんの友達だと言う小母さんが来て、
”この子、ひどいな。”
と言う。そして、「アキ」の母親に、顔をしかめて、
”あんたが放っておいたから。”
と言った。
・それに対して、「アキ」は、
”私は、この母親の家に居るしかないんだから、
仕方無いじゃないか。”
と思う。
・そのお祖母ちゃんが亡くなって、
「アキ」も、雪科第五中学校の制服を着て、
葬儀に出席した。
・葬儀が終わり、自分の部屋に居ると、
酒に酔った義父が帰って来て、「アキ」の部屋に来て、
「アキ」を襲う。
・必死に居間に逃げて、箒でつっかえ棒にするが、
力づくで入って来ようとする。
・もう防げないと逃げようとした時、
母親の小さな手鏡が光り、小さな手鏡に手を乗せたら、
不思議とすんなり手鏡の中を通り抜け、
孤城の大広間に居た。
・そして、直ぐ近くに、「オオカミさま」が居て、
小さな手鏡を持っていた。
・「オオカミさま」が、
”ピンチだったから。”
”助けない方が良かった?”
と言葉を掛けて来るのに、「アキ」は、
”ううん。そんなことない。ありがとう。”
と返し、ポロポロと涙を流しながら、
”私、ここに住んじゃダメかな?”
と聞くと、「オオカミさま」は、手を握ったまま、
”無理だ。”
と、何かに耐えるような声で答えるのだった。
・家に帰る気がせず、制服のまま、ゲームの部屋に居ると、
「こころ」「マサムネ」「スバル」がやって来て、
「アキ」の着ている制服が雪科第五中学校の物と分かり、
みんなが、同じ雪科第五中学校の生徒だったことが判明する。
・「アキ」は、
”この子たちなら、助けてくれるかもしれない。”
”私と一緒に、立ち向かってくれるかもしれない。”
と思う。
・しかし、7人はパラレルワールドの違う世界に住んでいて、
一緒になれるのは「かがみの孤城」の中だけと知り、
絶望に追い込まれる。
・3月29日。
「アキ」は、
”私の日常を、もうちょっとマシに変えてください。”
”母をまともにしてください。”
”あいつ(義父)を殺してください。”
”バレー部のみんなに嫌われてない頃に戻してください。”
と願う。
・そして、
”願いが叶わないなら、私は、ずっとここに居る。”
と決意し、「かがみの孤城」の自分の部屋のクローゼットの中で、
5時を過ぎるのを待った。
・5時が過ぎようとする中、「ウレシノ」の、
”アキちゃん、どこ?”
と必死に捜す声がする。
・「アキ」は、
”ウレシノ、ごめん。みんなもごめん。
”巻き込むかもしれないけど、ごめん。
”生きてなんか、いたくない。生きられない。”
と、クローゼットの中で隠れていた。
・5時を過ぎた時、
”アオオオオオオオオオオオオン”
と雄叫びが聞こえ、
クローゼットの扉が開き、
オオカミの顔と、大きな口が現れた。