「夜のピクニック」の粗筋とネタバレ


<鍛錬歩行祭(夜間歩行)>
〇某県の「北高校(モデルは「茨城県水戸第一高校」)」では、
〇間に2時間の仮眠時間は有るが、80kmを歩き通す
  「夜間歩行」と言う行事が行われている。
〇以前は修学旅行が有ったが、
  生徒が、旅行先で他校生徒と喧嘩する事件が有り、
  修学旅行が廃止になって、
  代わりに、「夜間歩行」が行なわれるようになったそうな。
〇この行事は、生徒代表の実行委員会が中心となり行なわれる。
〇途中で歩けなくなった生徒は、救護バスに乗せられるのだが、
 それを、何よりもの屈辱と思う雰囲気が、生徒間には漂っている。
〇「夜間歩行」の前半は、クラスの旗を掲げ、クラス毎に歩くが、
 仮眠タイムの後は、「自由歩行」となり、
 自分の好きな友達などと走ったり歩いたり出来るようになっている。
〇自由歩行は、全校生徒が一斉にスタートし、学校到着順位を争うので、
 運動部のメンバーは、上位入賞を狙って、真剣に走るものでもある。
  勿論、最初からマイペースで歩く者も多いが、
  到着時間制限は有るので、それなりのスピードで歩かなければならない。
〇この「夜間歩行」は、足が上がらなくなるほどの疲労との戦いだが、
  ・歩き通した達成感。
  ・友達と助け合い支え合って、深まる結び付き。
 が生まれる行事である。

<西脇融(ゆずる)と戸田忍>
〇「西脇融」は、
  人が簡単に近付けない雰囲気を持っており、
  それに惹かれる子も多い。
〇「戸田忍」は、
  自分の感情を表さなくて、静かで落ち着いているが、
  しかし、存在感が有り、男子からも好かれている。
〇二人の関係だが、
   ・テニス部の「西脇融」と水泳部の「戸田忍」は、
    3年生になってから同じクラスになったが、
    心が通い、無二の親友となった仲である。
   ・「西脇融」も「戸田忍」も背が高く、格好良いので、
    女の子には人気が有り、持てる二人である。

<甲田貴子と遊佐美和子と榊杏奈>
〇「甲田貴子」は、
   ・学力も高くないし、
   ・邪魔臭がり屋だし、
   ・意欲も高くない、
  のだが、自分を弁解しない大らかさが人を引き付けるのか、
  人気が有る。
   また、世俗には関心が無く天文学に興味を持つ「芳岡祐一」と
  高校1年生の時、付き合っていたことが有るが、
  恋愛などではなく茶飲み友達の範疇で、
  デートしていると言う感覚が無い付き合いだった。
〇「遊佐美和子」は、
   ・学力はトップクラスで、
   ・剣道の有段者で、スポーツも出来、
   ・老舗の和菓子屋のお嬢様で、
   ・和風の美人、
  と、全てを持っている子である。
   そのトップクラスの美少女が、中途半端な「甲田貴子」と、
  大の仲良しであるところが、不思議である。
   また、ハンサムで、学力ナンバーワン、スポーツマンの
  「志賀」と付き合っており、学校中からベストカップルと言われていたが、
   ”自分たちは、その状況を楽しんでいるだけ”
  と悟り、別れたばかりである。
〇「榊杏奈」は、
   ・両親が化学者で、アメリカで活動しており、
    娘の「杏奈」もアメリカで育ったが、
   ・両親が日本に赴任した時、同行して、
    北高に編入し、「甲田貴子」「遊佐美和子」と友達に成った。
   ・アメリカの大学に進学する為に日本を離れたが、
    北高の「夜間歩行」が大好きで、3年生の時に参加出来なくて、
    とても残念に思っていた。
   ・名門スタンフォード大学への合格入学を決めたらしい。
   ・「西脇融」に恋していて、アメリカに旅立つ前に、ラブレターを出している。

<甲田貴子と西脇融の関係>
〇気付けば、それぞれが、お互いを盗み見していることが多く、
   ”二人は相思相愛。”
   ”付き合っている。”
  との噂が定着しつつある。
〇「西脇融」が「甲田貴子」を見る目は、冷たく厳しいが、
  「甲田貴子」が「西脇融」を見る目は、戸惑いが有る。
〇二人共が、親友にも言っていないが、
   ・「西脇融」と「甲田貴子」は、異母兄妹だったのである。
   ・「西脇融」の父親が、不倫し、生まれたのが「甲田貴子」で、
    「甲田貴子」の母親は、認知も養育費も要求せず、
    会社経営をしながら、シングルマザーとして「貴子」を育てて来た。
   ・「西脇融」の父親は、早くにガンで他界し、
    「融」の母親は、「融」の成長だけを楽しみに生きている。
  と言う秘密が有った。

<関係の修復努力>
〇「甲田貴子」は、この「夜間歩行」の間に、
   「西脇融と話をする。」
  ことを決意していた。
〇「西脇融」のことが好きで、「甲田貴子」も好きな「榊杏奈」は、
  二人が仲直りをするよう、或る作戦を立てる。
  それは、「杏奈」の弟「順弥」を「夜間歩行」に参加させて、
  あれこれ尋ねさせて、秘密を明らかにさせていくことだった。

<榊順弥>
〇「順弥」の姉の「杏奈」は、「夜間歩行」が大好きで、
  1年生の時の「夜間歩行」の素晴らしさを、弟に繰り返し聞かせた。
〇姉が一所懸命に言うので、「順弥」は、どんなものか知りたくて、
  翌年の姉が2年生の時の「夜間歩行」には、
  姉に内緒で、北高の白ジャージ体操服を着て、
  「夜間歩行」に紛れ込んで体験したが、
  アメリカ育ちで、考え方がアメリカ人になっている「順弥」には、
  「夜間歩行」は日本人の集団主義、精神主義の象徴で、
  ちっとも面白く感じなかった。
  この時、
   ”北高の生徒でない男子が写真に写っている”
  と言うことで、心霊現象騒ぎになったのである。
〇そして今年の「夜間歩行」には、
  アメリカに帰った「杏奈」は参加出来なかったので、
  姉を悔しがらせてやろうと考えた「順弥」は、日本に来て、
  今年も、白いジャージを着て参加。
〇「甲田貴子」や「遊佐美和子」に、「榊杏奈」の弟だと名乗り、
  「杏奈」が、
   ”友達の兄弟に、いいなと思う人がいる。
    と言っていたけど、
    タカコやミワコには、兄弟はいる?”
  と聞いて来る。
  その言葉を聞き、「甲田貴子」は、「西脇融」のことだと直感し、
  ドキッとすると共に、「杏奈」が好きだったのは「西脇融」と知る。

<秘密が明らかに>
〇仮眠所の中学校の体育館で横になり、「甲田貴子」は「遊佐美和子」に、
   ”「杏奈」の弟「順弥」が、あたしかみわりんの兄弟のことを
     「杏奈」が好きだった、って、変なこと言ってたよね。
     あたしに兄弟なんていないのに。”
  と冗談めかして言ったのに、「遊佐美和子」は、
   ”西脇君のことよね。
    だったら別に勘違いしてないでしょ。
    西脇君は、貴子の異母兄弟だもの。”
  と、あっさりと答える。
〇「西脇融」も「甲田貴子」も、
   ・「二人が異母兄妹だとは、誰も知らない。」
    と思っていたし、現に、「融」の親友である「戸田忍」も、
    二人を結び付けようと考えたりするほどだったから。
   ・しかし、「貴子」の母親は、
    「貴子は、この秘密を、自分からは言わないだろう。
     だから、いざと言う時は、貴子を守ってやってほしい。」
    と、「遊佐美和子」と「榊杏奈」には伝えていたのである。
〇翌朝、自由歩行になり、「西脇融」と「戸田忍」は走り出す。
 「甲田貴子」と「遊佐美和子」も走り出す。
〇しかし、元々膝を痛めていた「西脇融」は足首をねん挫し、
  走れなくなり、休んでいる所に「貴子」と「美和子」が追い付く。
  そして、「西脇融」の荷物を、3人で分担して持つことになる。
〇4人が歩いている所へ、「榊順弥」が現れ、「西脇融」を見て、
   ”あなた、兄弟いるでしょう、杏奈の友達の中に。”
  と問いかける。
   それに対して、「戸田忍」が、
   ”なんか誤解してない?
    融には兄弟なんていないよ。”
  と反論すると、「榊順弥」は、
   ”ううん、いるはずだよ。
    何でも、家庭の事情が有って、同じ学年に居るんだって。”
  と断言する。
〇その言葉を聞いた「戸田忍」が、「甲田貴子」の顔を見た時、
  「貴子」は、あまりのことに表情を取り繕うことが出来ず、
  「戸田忍」は、「貴子」の顔を見て、全てを悟り、
   ”おい、融、そうなのか”
  と詰め寄る。
   そして、「融」の表情を見て、
   ”そうだったのか。”
   ”どうして、(親友である俺に)言ってくれなかったんだよ。”
  と、小さく呟いてうなだれ、気まずい沈黙が訪れた。
〇自分の発言でみんなが凍り付いたのに気付いた「榊順弥」は、
  「美和子」と「貴子」に、
   ”僕、何か悪いこと言った?”
  と、恐る恐る尋ねる。
   それに対して、「美和子」も「貴子」も、
   ”言ってもらって良かったのよ。”
  と答える。

<友情の再構築> 
〇沈黙が続いたまま、「西脇融」と「戸田忍」は歩き続けるが、
  遂に、「融」が、
   ”言いたくなかったんだ。家庭の恥だから。”
  と打ち明け、「忍」は受け入れる。
〇「戸田忍」は、「西脇融」に、
   ”俺、「甲田」に、
     「西脇融」が好きだろう、好きだろう。
    と言い続けたりして、傷付けてしまってた。”
  と打ち明けると、「融」は、
   ”大丈夫だよ。「甲田」は強いし寛大だから。
    俺のこと、憎んだり恨んだりしない。
    俺があいつの立場だったら、あんなふうにはしていられない。”
  と慰める。
   二人で会話をしたことが無くても、
  「融」は、「貴子」のことをしっかり理解していたのである。
〇「戸田忍」や「遊佐美和子」が気を利かせて、
  「西脇融」と「甲田貴子」を、二人っ切りで歩かせる。
   そこで、「貴子」は、
    ”歩行祭の間に、(融と)一言でも言葉を交わせたら、
     誘おうと思っていた。
     今度、うちに遊びにおいでよ。”
   と伝えると、「融」は、
    ”行くよ。”
   と答える。「貴子」は、
    ”お母さんに会ってくれる? 嬉しい。”
   と声を震わす。
〇再び合流した「遊佐美和子」に、「甲田貴子」は、
    ”初デートよりも緊張した。”
    ”「西脇融」は、思ったよりも生真面目で不器用な奴だった。”
  と伝える。
   「美和子」は、
    ”あたし、大学生になったら、「西脇」君にアタックしようかな?
     彼、大学に行ったら、もっとモテるようになるから、
     今の内に、しっかり印象付けておかなきゃ。”
   と言い、「貴子」は、
    ”「融」の妻は、自分の姉妹でもあるのか”
   と頭の中で考えた。

<終わりに>
〇北高の校門に近付き、いよいよ歩行祭が終わろうとしていた。
〇その近くに車を止めて、「榊順弥」は、
  「甲田貴子」「遊佐美和子」たちを待つ。
〇「西脇融」と「戸田忍」が帰って来た。
  それを見て、
   ”あの男、格好良かったなあ。姉は面食いだったんだな。
    しかし、最初に会った時は、
    ぶっきらぼうな、ガードの堅い男に見えたのに、
    今は、やけにさわやかで、にこにこしている。”
  と不思議に思う。
〇とうとう、「順弥」が待っていた「タカコ」と「ミワコ」が来た。
  「順弥」は、二人の名を叫び、手を振る。
  向こうも「順弥」に気付き、疲れ切った顔が輝く。
  「順弥」は嬉しくなって、掛けて行く。