粗筋とネタバレ
「最後の証人」
人気作家「柚木裕子」さんの
「最後の証人」の粗筋とネタバレを書く。
因みに、この作品の主人公は、
・元検事だった佐方貞人(さかたさだと)で、
・その魅力的な主人公に惚れた読者が、
”もっと佐方貞人が登場する作品を読みたい。”
と熱望した結果、
検事の本懐、
検事の死命、
の短編集が誕生した。
と言う謂れ付きの作品だ。
なお、私の書く「粗筋とネタバレ」は、
作者の工夫した構成も、隠しに隠したネタバレも、
平気で裏切る内容なので、それを承知で読んでください。
例えば、この作品では、
・冒頭で、ホテルの一室で男女が殺し合い、
・殺人犯として容疑者が逮捕され、裁判に掛けられるが、
・殺されたのが、男か女かは、
物語の最終部分でしか表されないが、
私は、時系列で書いていくので、作者の工夫も有ったものじゃない。
それを承知で読んでください。
<死亡交通事故の勃発>
・「高瀬光治(たかせこうじ)」は、
・医科大学時代の同期「浜田」の妹「美津子」と結婚し、
・一人息子の「卓(すぐる)」を設け、
・38歳で、病院の勤務医を辞め、
東京から新幹線で2時間ほどの地方都市「米崎市(架空の都市)」で、
個人医院を開き、
・幸せで充実した生活を送っていた。
・しかし、「卓」が小学5年生の時、
親友の「直樹」と塾に行った帰り、
・飲酒運転で信号無視の車に撥ねられ即死する。
・その目撃者であった「直樹」が、
”僕たちは青信号を渡っていた。”
”車は、赤信号を無視して「卓」を撥ねた。”
”車を降りて来た人は、酒臭かった。”
と証言した。
・ところが、「卓」を撥ねた「島津邦明」は、
建設会社の経営者で市の有力者であることから、
警察を監督する「公安委員会委員長」を務めており、
・警察は、その警察との関係が深い「島津邦明」を庇って、
”少年たちが信号無視で交差点を渡った。”
などと虚偽の報告書を作り、事件を作り替えた。
・納得出来ない「高瀬光治」は、警察に行くが、
担当刑事の「丸山秀雄」に追い返される。
・「高瀬光治」と「美津子」は、弁護士に相談するが、
”相手が悪い。”
と諦めさせようとするし、
地方検察庁に上申書を出したが、却下される。
・その後、目撃者捜しのビラ配りなどをするが、
時が流れ、事件は人々の記憶からも消えて行った。
<7年後>
・虚しい生活を送る「高瀬光治」と「美津子」だが、
「美津子」が、余命一年の「胸腺ガン」に罹る。
・”この病気は、手術でも完全にガンは取り除けず、
抗がん剤での化学療法や放射線治療しか無い。”
と伝えると、最初は
”死にたくない。”
と叫んでいた「美津子」だが、落ち着くと、
”私、卓の元へ行けるのね。”
”島津邦明は私のことを知らないから、
上手く近付いて、殺す。”
と決意する。
・「島津邦明」のことを調べた「高瀬光治」と「美津子」は、
「島津邦明」が
陶芸に興味を持ち、名陶を収集していること、
実力も無いのに、陶芸教室の講師を気取っていること、
などを調べ、「美津子」その陶芸教室に入学することで近付く。
・そして、色仕掛けで「島津邦明」に近付き、興味を持たせ、
「美津子」自ら、陶芸教室生徒の主婦たちに、
”自分と島津邦明先生は、不倫の関係にある。”
と言いふらす。
・また、「高瀬光治」と「美津子」は、わざと、近所に聞かれるよう、
妻の浮気での夫婦喧嘩を行ない、印象付ける。
・その間、「高瀬光治」と「美津子」は、
ホテルのディナーで使うナイフを使っての
心臓を挿して殺害する方法を、何度も練習する。
・そして、米崎市の高層ホテルで「島津邦明」と会うところまで漕ぎ着け、
入浴し、バスローブ姿になった「美津子」は、
「島津邦明」にナイフを突き付けて迫る。
・しかし、実際は、「美津子」は自分で腕を傷付け、血を撒き散らし、
最後は、自分で心臓を突き刺し、死んで行く。
・死んだ「美津子」を残し、
「島津邦明」は、バスローブから背広に着替え、
タクシーを呼んで逃げて行くが、目撃者などから、
「島津邦明」は「高瀬美津子」殺害の容疑で逮捕される。
<佐方貞人の弁護>
・「島津邦明」から、弁護を頼まれた「佐方貞人」は、
東京の弁護士事務所から裁判の行なわれる「米崎市」に出張し、
「島津邦明」と面会し、弁護を引き受ける。
・弁護を引き受けた理由は、
誰が観ても「島津邦明」の犯行としか思えない状況なのに、
「島津邦明」が、情状酌量の減刑を願うのではなく、
あまりにも堂々と身の潔白を訴えるからであった。
・裁判での検事は、
「佐方貞人」が検事を務めていた時の上司「筒井」部長が、
優秀と認める女性検事「庄司真生(しょうじまお)」で、
彼女の圧倒的な証人尋問で、「佐方貞人」側の敗け模様だった。
・しかし、公判の最終日に、「佐方貞人」弁護士が用意した証人は、
一年前に警察官を退職した「丸山秀雄」だった。
・「丸山秀雄」は、
・7年前に「島津邦明」が起こした飲酒運転事故を、
警察の上司の指示を受けて、「高瀬卓」の信号無視にした。
上司に逆らえば僻地に飛ばされるのは目に見えていて、
痴呆症の母を抱え、経済的にも苦しくて、
僻地に飛ばされれば、
病弱な妻が必死で働いてたのに、職を失うこと、
思春期の息子たちを転校させたくなかったこと、
から、指示を断れなかった。
・「佐方貞人」弁護士が、
”7年前の交通事故の真実を法廷で証言してほしい。”
と頼みに来たが、
「島津邦明」が殺人犯として裁判に掛けられていると知り、
7年前の罪を、今回、受ければ良いと考え、証言を拒否して来た。
・しかし、「佐方貞人」弁護士が言った、
”1回目は過失であっても、2回目は違う。
二度目に犯した過ちは、その人間の生き方になる。”
”今なら、7年前の事故の処理を、たった一度の過ちと言える。
しかし、今度の裁判から逃げたら、過ちではなくなる。
貴方は単なる犯罪者になる。”
と言う言葉が頭から離れなかった。
・私は、警察官と言う仕事に誇りを持って生きて来た。
その私にとって、7年前の交通事故は、唯一の汚点で恥だった。
だから、今、証言台で告白しなければ、私の警察官人生その物が、
偽りだったことになると感じた。
・事件が事件を生むことが有る。それが今回の事件で、
第二の罪(殺人事件)を生ませた原因は、私に有ります。
私が正義を貫き通していれば、今回の事件は起きなかった。
私は裁かれなければなりません。
と述べるのだった。
<佐方貞人の弁護 2>
・最終弁論で、「佐方貞人」弁護士は、
・「美津子」が陶芸教室を選んだ時、
陶芸家としては大した技量も無い「島津邦明」を選んでいること。
・「美津子」と「島津邦明」が不倫関係に有ったと言う噂は、
誰も実際の現場は観ておらず、全て「美津子」の発言だけだったこと。
・ナイフの指紋は、
「島津邦明」の指紋の上に、「高瀬美津子」の指紋が有り、
最後にディナーナイフを握っていたのは「美津子」であること。
心臓を刺されて即死の人間が、ナイフを抜こうなど出来ないこと。
・「島津邦明」が着ていたバスローブに飛び散った血痕は、
波紋状で、刺した時の返り血では着かない血痕であり、
自分の腕を傷付けた「美津子」が、「島津邦明」に振り掛けたこと。
・「島津邦明」を殺すなら、夫の「高瀬光治」が毒を持たせ、
飲み物に混ぜれば済むこと。
・男と女が争ったら、男が勝つ確率が多いのに、敢えて刃物を使ったのは、
「島津邦明」を刺し殺すつもりでなく、
「美津子」が自分で胸を刺して死んで、「島津邦明」に罪を被せる為だった。
・その決意をさせたのは、「美津子」自身が、不治のガンに罹っていて、
このままでは死んでも死にきれないと考え、
「島津邦明」に殺人の罪を被せようとしたのだろう。
などを、訴えた。
・そして、傍聴席にいた「高瀬光治」に、
”「美津子」さんが、貴方に「島津邦明」被告への復讐計画を持ち掛けたのですね?”
と問い質した。
・しかし、「高瀬光治」は、
”まったく身に覚えが有りません。”
と答え、「佐方貞人」弁護士の推測を否定する。
ただ、その時の「高瀬光治」の心には、
・必死に、ナイフで自分の心臓を刺す練習をする「美津子」の姿、
・「美津子」にとっては、
このままでは、ガン治療で体がボロボロになりベッドに横たわるより、
どのように死ぬかが、生きることになる。
・最後の日、「美津子」が、
”私たちは、同士よ。”
と言った。
”そう。私たちは同士だ。何が有っても裏切らない。”
と言う思いが浮かんでいた。
<判決>
・裁判員と裁判官が出した判決は、
「島津邦明」の無罪だった。
・その言葉を聞き、「島津邦明」の顔が緩んだ勝者の顔だった。
そして、「島津邦明」は、女性検事「庄司真生」を、
愉悦と侮辱の眼で睨み付けた。
・しかし、裁判官は、「島津邦明」に、
”今の時点では、被告人は無罪ですが、
本事件に深くかかわったと思われる7年前の事故の
再調査が始まると思います。
この事件は、まだ終わっていません。新たな局面に移っただけです。”
と告げる。
・無罪を勝ち取り、意気揚々と裁判所を出る「島津邦明」だが、
「島津邦明」の妻と2人の息子たちは、その父親を、
冷たい目で睨み付けるのだった。
<エピローグ>
・感情のこもらない声で、
”おめでとうございます。”
と声を掛け、色々と質問する女性検事「庄司真生」に、
「佐方貞人」は、
”法を犯すのは人間だ。
検察官を続けるなら、法よりも人間を観ろ。”
と伝える。
・「佐方貞人」の助手を務める「小坂千尋(こさかちひろ)」は、
事情聴取の為に警察官に連れて行かれる「高瀬光治」に、
”高瀬さんと美津子さんの気持ちを一番理解しているのは、
うちの先生です。”
”先生は、罪はまっとうに裁かれるべきだ、と言っています。
光治さんも美津子さんも卓君も、まっとうに救われるべきです。”
”高瀬さんを本当に弁護出来るのは、
全てを知っているうちの先生しかいません。”
と、名刺を渡す。
・自分を呼んでいる「佐方貞人」の元に駆け出す「小坂千尋」は、
「高瀬光治」からの依頼の電話が鳴る日が来ることを、
心の底から願った。
<追加情報>
・12年前、「佐方貞人」は、「米崎市」の地方検察庁で働いており、
将来は検察の大幹部になるだろうと嘱望された優秀な検事だった。
・しかし、検事になって5年目の秋、
米崎市地方検察庁にそんな優秀な成績を挙げている者が来るのは、
地検始まって以来、と言われる「神田」が、検事として着任して来たが、
地検で検察実務修習を受けていた女性を、泥酔させ、レイプ。
・しかし、警察は、身内同然の検事の犯行を隠蔽し、
検察庁は、「神田」を支所に異動させる人事で、事件を終わらせた。
・納得出来ない「佐方貞人」は、一検事として「神田」を起訴すると訴えるが、
それまで「佐方貞人」を指導し一人前に育てて来て、
「佐方貞人」も尊敬して来た上司の「筒井」は、
”神田は、左遷と言う罰で裁かれた。”
”事件を公表すれば、地検だけでなく警察の信用問題に関わって来る。
検察が威信を失うわけにはいかない。”
と「佐方貞人」を止める。
・失望した「佐方貞人」は、検事のバッジをもぎ取り、床に叩き付け、
検事を辞める決意をする。
・それに対して、「筒井」は、
”真実を暴くことだけが、正義じゃない。”
と言う。
・「佐方貞人」は、
”あんたが言う正義は何だ。
俺の正義は、罪をまっとうに裁かせることだ。”
と答える。
・弁護士になった「佐方貞人」は、巧みな弁護で、
依頼者を救って行き、その名声を高めている。
・しかし、弁護士事務所の事務員を務める「小坂千尋」は、
もっと高額な弁護料を貰える事案を扱うべきと、不満を漏らす。
<追加情報 2>
・「佐方貞人」が検事を辞め、弁護士になって、12年経ち、
「島津邦明」の事件を担当することになった作品が、
2010年に発表された「最後の証人」。
・「最後の証人」の作品としての素晴らしさと、
主人公「佐方貞人」の魅力的なキャラクターから、
読者が、「佐方貞人」シリーズを熱望し、
「佐方貞人」が若かった頃の検事時代を書いたのが、
2011年の「検事の本懐」、
2013年の「検事の死命」、
である。
・と言うことで、作品の発表の年度は上記のとおりだが、
「佐方貞人」の人生の順番は、
「検事の本懐」、
「検事の死命」、
「最後の証人」、
の順である。
中断