「夏をなくした少年たち」


第二部(2) 二十年前の真実

<20年前の「智里」の死の真実>
 20年前、「弥彦山」に登り、蜂に刺されて大泣きし、
山頂を目指す4人グループに、
八合目辺りに置いてきぼりされた「智里」が殺されたが、
その犯人は、誰だったのか?

 20年後、大人になった「国実」が、
「聖剣」から聞いた、あの事件の真実を、
「拓海」と「啓」に話す。

 事件の後、命を取り留めた「聖剣」を「国実」が訪ねた時、
「聖剣」が、自分が「智里」を殺した犯人だと語る。
 それによると、
4人を追い掛けて「弥彦山」の八合目に差し掛かった時、
泣いている「智里」を見付け、慰めようとしたのに、
「智里」から拒否され、自分がまた拒否されていると傷付き、
逃げようとする「智里」を突飛ばしたら、転んで、
近くに有った石に頭をぶつけ、死んでしまったのだと言う。

<「聖剣」の大怪我>
 「聖剣」が「国実」に語ったことによると、
「聖剣」は、自分で自分を殺そうと思い、
180cmに近い体力を使って、大きな石を頭上に放り上げ、
石を頭に当てて死のうとした。
 しかし、簡単には行かず、3回失敗して、
背中や後頭部に3カ所の痣を作った。
 そして、4回目に頭を直撃し、瀕死の重傷を受けたのだ。

 「聖剣」の告白を聞いた「国実」は、警察にも明かなかった。
 その理由は、「智里」を殺した人間が分かったら、
優しい両親が、人を憎む人間に変わりそうで、怖かったからだ。
 その結果、両親は、一度も「国実」を責めることもせず、
逆に、
「お前だけでも生きていて良かった。」
と言ってくれ、家族の団結は深まった。


<「聖剣」を殺したいきさつ>
 穏やかに暮らしていた「三田村家」だが、病気などでみんなが亡くなり、
「国実」は、守る物が無くなってしまい、人生の指針を見失う。

 その時、自分を突き動かす何かが欲しくなり、
「聖剣」への復讐を考えるようになり、「聖剣」の居場所を探し出そうとした。
 そして、東京に住んでいることを知り、自分も東京に移住。
 二か月間、「聖剣」を追跡した。

 「国実」は、「聖剣」が気付いていないと思っていたのに、
あの夜、公園で、突然振り向き、「国実」に近付き、
「殺してくれ。お前の手で、終わりにしてほしい。」
と、自分で用意していた縄跳びの縄を「国実」に渡して来た。
 そして、色々な想いが押し寄せて、気付いたら首を絞めていた。

 「聖剣」は、全く抵抗をせず、初めから脱力していて、
何時、息絶えたか分からなかった。

 そんな経緯を「拓海」に語った「国実」は、
「今の話は、他の刑事に話したくないし、話しても信じないだろう。
 だから、犯行動機は、単純に復讐と言うことにしてほしい。」
と頼む。

<「雪丸」のこと>
 「拓海」が、「啓」や「国実」と会っている時、
見知らぬ女性から電話が入る。
 そして、
「結婚はしていないけど、長く一緒に暮らしている人が居る。
 その人は、東京で殺された人の身元が分かって、
 真っ青になったので、問い詰めて、昔の事件を知った。」
と言う。
 そこで、「拓海」は電話を替わってもらい、「雪丸」と話す。
 「雪丸」は、
「ずっと謝りたかった。謝るきっかけが欲しかった。」
と震える声で繰り返す。
 涙声で会話にならなくなった「雪丸」に、内縁の妻に替わってもらい、
「彼に、
 ”いい加減に痩せろ”
 と伝えてください。」
と言う。
 それに対して彼女は、
「私が言うよりも、ずっと効くと思います。」
と答えた。


 視線の先には、子どもたちが居る。
 眼下に広がる夜景と、その隙間に咲くたくさんの花火を眺めている。 
 小さな子どもたちが。
 今度は5人、しっかり揃っている。

 そんなまぼろしが、一瞬、浮かんで直ぐに消えた。
 こんな日が来るなんて。
 僕は、また思った。