<第5話 使徒(しと)>

 「使徒」とは、
・狭義には、イエス・キリストの12人の高弟を指すが、
 広義には、キリスト教の宣教者およびその称号を指す。
ようである。

 今では、小説や漫画、アニメのキャラクターのモチーフ(発想)としても良く用いられるが、この小説では、「派遣者」の意味に使われ、「修一」が使徒になる。


1)不遇な女の子
・12月。
・6年前に、娘の為に「リカちゃん人形」を盗んだ「山内公太」が、
 娘に「リカちゃん人形」を渡し、道路に飛び出し、
 バイクに撥ねられ即死した。
・デパートで警備員をしていた「里見三郎」は、
 逃げる「山内」に足を刺され、神経が傷付き、
 足を引きずる後遺症が出る重傷を負う。
・父と二人暮らしだった「山内恵美」は、遠い親戚に引き取られるが、
 親戚の娘たちにいじめられ、かび臭い納戸に住まわされるなど、
 不遇な生活を送っていて、楽しみは何もない。

2)クリスマスプレゼント
・「自分が追い掛けなければ、山内も道路に飛び出さず、
  死ぬことは無かっただろう。」
 と悔やむ「里見三郎」は、
 不遇な生活を送る「恵美」に、こっそりと、
 クリスマスプレゼントを贈ることにする。
・しかし、足が不自由な「里見三郎」には、出来ない。
 そこで、泥棒の「大野芳夫」に頼み、
 夜中に、「恵美」の部屋に忍び込ませ、
 プレゼントを置いて来させていたのだ。
・その「大野」は、刑務所に入れられ、来春まで出られない。
 そこで、「大野」は、「真壁修一」に、
  「サンタになって、恵美の部屋に届けてくれ。」
 と頼む。

3)プレゼントの購入
・「修一」は、焼けた実家が有った地区の、
 民生委員をしている「高見沢」を訪ね、
 預かってもらっていた、父親の形見の腕時計を受け取り、
 それを質屋に持って行き、3千円を受け取り、
 そのお金で、「恵美」へのプレゼントを買うことにする。
 「恵美」へのプレゼントを買うのに、
 泥棒で得た金を遣いたくなかったのだ。
・そして、「カメオ(浮彫)のペンダントトップ」を買う。

4)サンタクロース
・「恵美」の住む新興住宅団地に向かい、
 「村松家」に忍び込み、「恵美」の寝る「納戸」に入る。
・納戸は、段ボール箱などが詰め込まれていたが、
 「恵美」の寝る布団の枕元はきちんと整理されていた。
・「恵美」の寝顔を見ると、額の広い、賢そうな顔だった。
・しかし、「恵美」は、寝ていなかった。
 長い睫毛が震え、瞼の下の眼球が動いている。
 目を明けたい衝動と、懸命に戦っているのだろう。
・「カメオ」のプレゼントを靴下の中に入れると、
 靴下の下に、「サンタ様へ」と書かれた封筒が置かれていて、
 一瞬迷ったが、「修一」は封筒をポケットに入れ、部屋を出た。
・「村松家」の雨樋を伝って外に出ようとした時、
 制服制帽の男が居ることに気付き、急いで逃げる。

5)「恵美」の手紙
・「修一」と「啓二」は、「恵美」からの手紙を読む。
 そこには、
  〇毎年、クリスマスが待ち遠しくてたまらないこと。
  〇みんなに自慢したいけど、サンタさんの言い付けを守り、
    家の人にはナイショにしていること。
  〇プレゼントは秘密の場所に隠し、時々取り出して眺めると、
    心がウキウキして、幸せで楽しい時間になること。
  〇何時か、サンタさんに会って、お礼を言いたいこと。
  〇私は、サンタさんの名前は知らないけど、顔は覚えている。
    自分の方が大変だったのに、優しい目で私を見つめてくれた。
  〇サンタさんが来た時、目を開けたいけど、
    もし、違う人だったら、どうしいいか分からなくなるから怖い。
  〇私にとって、サンタさんは、死んだお父さんと同じくらい大切な人。
 などが書かれていた。

5)「里見三郎」との面談
・「修一」は、製麺工場の守衛室を訪れ、「里見三郎」に会う。
 そこには、警察の制服に似た、警備員の制服と制帽が掛かっていた。
・「修一」は、
  「大野芳夫にサンタクロースを頼んでいたのは、あんただな?」
 とただす。
・「里見三郎」は、
  〇「山内公太」に足を刺され、救急車で運ばれる時、
    「恵美」が、リカちゃん人形を胸に抱いて、
    自分を見つめている姿を観て、全てが分かった。
  〇最初は、足を不自由させた「山内」を随分と恨んだけど、
    その内、残された「恵美」ちゃんのことが不憫になった。
  〇昔、スーパーマーケットで警備の仕事をしていた時、
    「大野」を万引きで捕まえたけど、初犯だったので許し、
    それ以降、「大野」とは付き合いが有ったので、
    「恵美」ちゃんのことを相談したら、快く引き受けてくれた。
  〇夏に「大野」に有った時、
    「自分は出所出来ないのでサンタは出来ないが、
     代わりの者に頼んだ。」
    と言ってくれたので、
    イブの前の日に、プレゼントを持って「大野」の家に行ったら、
    奥さんは、行方不明になってて、プレゼントを届けられなかった。
  〇「これでは、今年は恵美ちゃんへのプレゼントを届けられない。
     大野の代理の人は、本当にサンタさんをやってくれるのか?」
    と心配になって、村松家の辺りの様子を観に来てた。
  〇その時、村松家から忍び出て来る人を見て、
    「大野」の代理の人が、プレゼントを渡してくれたと分かった。
 などと話した。
・「修一」が、
  「ずっと名乗らないつもりか?」
 と聞くと、「里見三郎」は、
  「私が、お父さんを殺してしまったようなものです。」
  「あの時、見逃してやれば良かった。」
  「普通の万引きではなかった。
   いい歳をした男が、リカちゃん人形なんかを盗むはずが無いのに。」
  「恵美ちゃんの夢を壊したくない。
   サンタクロースが、あの時、刺された警備員と知ったら
   恵美ちゃんは、ガッカリするだろう。」
  「私に対して、憎しみや負い目を感じるかも知れない。」
  「だから、そっとしておいてください。」
 と答える。
・「修一」は、
  「いつまでも子供じゃない。」
 と言って、「恵美」からの手紙を「里見三郎」に渡す。
・玄関で靴を履いていると、背後で、「里見三郎」の嗚咽が聞こえた。

 「私にとって、サンタさんは、死んだお父さんと同じくらい大切な人です。」

 勝手に、この小説の続きを書かせてもらえるなら、
・「恵美」の気持ちが分かった「里見三郎」が、「恵美」を引き取り、
・父親代わりに、「恵美」を幸せな環境の中で育ててやってほしい。
と思う私だ。