<第4話 業火(ごうか)>

 「業火」とは、
「罪人を焼き苦しめる地獄の火のこと」
だが、この小説の場合は、
「悪業が身を滅ぼす」
の意味になる。

1)襲われる同業者
・9月。
・泥棒の同業者が襲われ始めた。
 既に3人が襲われ、瀕死の重傷の者もいると言う。
・そして、「真壁修一」も、遂に襲われた。
 襲って来たのは2人のヤクザだったが、
 「修一」は逆襲し、一人は叩きのめした。
・その隙に、もう一人に組み敷かれたが、
 相手の匕首を取り上げ、首筋に当てて、
  「誰に頼まれた?」
 と迫ると、ヤクザは、
  「ジゴロ」
 と答える。
・その時、叩きのめしたもう一人が起き上がり、
 特殊警棒で「修一」の側頭部を殴りつけ、
 その後は、殴られ蹴られを受ける。
・そして、ヤクザたちは、
  「重原昌男の家に、盗みに入ったのはお前か?」
 と尋ねて来た。
・その時、寺の住職が気付かなければ、
 「修一」は殺されていただろう、激しい攻撃だった。

2)重症の「修一」
・「修兄ィ」
 と呼び掛ける「啓二」の声で目が覚めた。
 そこは病院のベッドの上で、「修一」の体は、
  〇頭は、頭蓋骨骨折は無かったが、内出血、
  〇アバラ、右腕、左手の指にヒビ、
  〇全身打撲、
 の被害を受けていて、ショック死してもおかしくない状態だった。
・病院着を私服に着替え、駆け付けた看護師を押しのけ、
 玄関に向かった時、「啓二」が叫んで警告した。
 そこには、暴力団「博慈会」のパンチパーマ組員が張っていたのだ。
・「修一」が、
  「襲われた理由を調べる。」
 と言うと、「啓二」は、
  「大怪我をしているんだから、雲隠れしよう。
   どっか別の街に行って、ほとぼり冷まそう。」
 と言うが、「修一」は、
  「一度離れたら、戻れなくなる。
   土地っていうのは、そう言うもんだ。」
 と答え、「啓二」は、
  「やっぱり久子が居るから?」
 と言う言葉を呑み込む。

3)ジゴロの調査
・病院を抜け出した「修一」は、襲撃された時、ヤクザが言っていた、
 数年前に分譲された妻山住宅団地に向かい、
 「重原昌男」の家を探し、見付ける。
・何かの調査員の様を装って家の様子を調べていると、
 70歳をとうに過ぎた老婆が近寄って来て、
  〇今は、誰も住んでいない。
  〇亭主が酷い男で、ちょっと色男なのを鼻にかけ、
    女を取っかえ引っかえ家に連れ込むので、
    奥さんは、子どもを連れて実家に帰った。
  〇亭主は、詩人だと名乗ってるが、大嘘で、
    40歳になるのに、親が死んだら会社辞めて、
    親の遺産を食い潰している。
  〇先々週、ヤクザが何人も来て、「重原昌男」を連れて行った。
  〇半月前に泥棒に入られた。
 などと、積極的に聞かせてくれた。
・「修一」が、老婆に、
  「何を取られたか、聞きましたか?」
 と聞くと、
  「そんなこと、知らないわよ。」
  「きっと、あの亭主、殺されちゃったわよ。
   でも自業自得よね。殺されても仕方無いようなことしてたんだから。」
 と答える。
・「修一」は、老婆に1万円札を渡し、後にする。

4)「博慈会」若頭「御影」と泥棒狩りの理由
 最初に、解説を。
・「ジゴロ」とは、
  女にたよって生活する男、ヒモ、女たらし、
・「若頭(わかがしら・かしら)」とは、
  暴力団の組長の次の地位(ナンバー2)、
のことである。

・「ジゴロ」の正体を探る為、刑務所で一緒に居て、
 今は、ホストをしている「ユウヤ」を呼び出し、
  「ヤクザの中に、ジゴロと呼ばれている男を知らないか?」
 と尋ねると、「ユウヤ」は、
  「博慈会の若頭の御影は、マスクがメチャメチャ良いし、
   苦み走った良い男だから、女の方が放っておかない。」
 と教えてくれる。
・「ユウヤ」と別れ、通りに出た途端、
 「修一」を襲った博慈会の3人に遭遇。
 近付いて来た3人は、「修一」を襲いそうな素振りを見せながら、
 最後は、「ニヤッ」と笑って去って行った。
 それを観て、「修一」は、立ち尽くす。
・「啓二」が、
  「どう言うこと?」
 と聞いてくるのに、「修一」は
  「容疑が晴れたってことだろう。」
 と答える。
  「啓二」が、
  「これで、大手を振って歩けるね。」
 と喜ぶが、「修一」は、納得出来ないものが有った。
・そこで、「修一」は、暴力団「博慈会」の事務所が有るビルの前で、
 5階の開いた窓を、凝視続ける。
 「啓二」は、さかんに怖がって絶叫し続けている。
・「修一」が立ち続けているのに気付いたのか、
 ヤクザが3人出て来て、咎める。
 それに対して、「修一」は、
  「御影って男に会わせろ。」
 と言い返すと、放り投げられ、蹴り倒される。
・しかし、「修一」が、再度、
  「御影に会わせろ。」
 と繰り返すと、怒号と共に、腹にパンチを受けた。
・すると、怒号を聞いた「御影」が、
  「よさねえか。」
 と手下を止め、「修一」は、1階の応接間に通された。
 「修一」は、大声が「御影」に届くことに賭け、賭けが成功したのだ。
・姿を現した「御影」が、
  「そうまでやられて、よく来る気になったな。」
  「で、俺に、何を聞きたい?」
 と尋ねて来た。
 それに対して、「修一」は、
  「あんたがジゴロなのか?」
 と聞くと、「御影」は、
  「俺が女殺しに見えるか?」
  「泥棒をやってるのに、ジゴロを知らないのか?」
  「ジゴロとは、二・五・六のことだ。」
 と教えてくれる。
・それを聞き、「修一」は、
  「刑法二五六条 贓物収受、故買ってことか?」
 と聞き直すと、「御影」は、
  「ジゴロは、盗品を売りさばく贓物売買の大物だった。
   今は引退したが、昔は、県内の故買屋の総元締めだった。」
  「お前が知らなくて当然だ。今の泥棒は現金しか盗まないからな。」
 と言う。
・「修一」が、
  「その故買屋のボスってのは、どこの誰なんだ?」
 と聞くと、「御影」は、
  「そいつは許してくれ。」
 と断る。
 しかし、「修一」が、
  「故買屋のボスが、なぜ泥棒を襲わせるのか?」
 と聞くと、
  「わけも分からずに殴られっ放しじゃ、納得出来ないわな。
   良いだろう。話してやる。」
 と、泥棒を襲った理由を説明してくれた。
・「博慈会」が「故買屋のボス」に頼まれ、泥棒を襲ったのは、
  〇故買屋のボスの高校3年生の孫娘が、
    親子ほど年の離れた「重原昌男」に引っ掛かり、
  〇一ヶ月もしない内に別れたが、
    痴態(ちたい=淫らな様子)を写したビデオテープを返さなかったので、
    「故買屋のボス」が、「博慈会」の組長に相談し、
    組員を「重原昌男」の家に送り込んだが、
    ビデオテープや通帳を保管していた小型金庫を、
    泥棒に盗まれていた。
  〇そこで、泥棒狩りを始めた。
 と言う理由だったのだ。
・「修一」が、
  「金庫を盗んだのは、誰だったんだ?」
 と聞くと、「御影」は、
  「まだだ。引き続き、狩らせている。
   盗んだ奴の名前も割れていない。」
 と答える。
 それに対して、「修一」が、
  「だったら、なぜ俺をシロ(無罪)に出来た?」
 と尋ねると、「御影」の声質が変わり、
  「まさかお前、
   俺に追い込みを掛けようってわけじゃないだろうな?」
 と、二人はにらみ合った。
 そして、好物の菓子を前にした幼児のように、
 ぺろりと舌なめずりをした。
・「修一」が「御影」自身に襲われる直前、部屋の電話が鳴り、
 「修一」の全身は、総毛立って、背中にどっぷり汗をかいていた。
・しかし、「修一」は、
  「修一をシロにした根拠を話すことは、ジゴロの正体を話すに等しい。
   そこから導き出される結論は・・・・・・。」
 と、ジゴロの正体を突き止め、席を立ってドアに向かった。
 それに対して、「御影」は、
  「話はもういいのか?」
 と聞く。
 「修一」は、
  「必要無い。これからジゴロに会いに行く。」
 と答えると、「御影」は、
  「ほう、分かったのか。
   そうか、だが、もう会えんぞ。」
 と言い、手下に、
  「香典を用意しろ。
   夜中に、芹沢の婆様が、心不全で逝ったそうだ。」
 と伝える。

5)確認
・「修一」と「啓二」は、
 「重原昌男」と「故買屋のボス芹沢セツ子」の家が並ぶ妻山団地に来て、
 様子を見ていた。
・そして、「芹沢セツ子」の言動を思い返し、
  〇お喋りで何でも興味を持ちそうな老女なのに、
    「修一」の顔の傷や痣に関心を持たなかったこと、
  〇「修一」が、芹沢セツ子に、
    「何を盗まれたのか?」
   と聞いたことで、
    「ビデオテープを盗んだ本人が、
      ”何を盗まれたのか?”
   と聞くわけがないので、泥棒狩りのリストから外されたのだろう。
  〇「啓二」が、
    「あの婆さん、ビデオテープが気掛かりのまま逝っちゃって。
     気苦労で死んだようなもんだね。」
    と言うのに対して、「修一」は、
    「あの世で、重原昌男が待ってる。あいこみたいなもんだ。」
   と答える。
・団地を去ろうとする時、黒塗りのベンツとすれ違ったが、
 後部座席には「御影」が居た。
 「修一」は、「御影」の、
 「金に困ったら、いつでも来い。」
 と言う言葉を思い出す。