映画「七つの会議」解説

 いつものように、表題の映画の解説とネタバレを書いておきます。
 まだ観ていない人は、自己責任で読んでください。



<会社「東京建電」とは>



 先ず、物語の舞台となる、大手総合電機「ゼノックス」株式会社の子会社である「東京建電」の組織図を紹介しておく。

 「東京建電」は、
・電車や新幹線、航空機のシート(座席)、会議用机や椅子、
・エレクトロニクス製品、
・冷蔵庫やエアコンなどの白物家電、
などを、製造販売する中堅企業である。
 そして、収益の大きな2つの柱は、
・ユニットバスなどの家屋内装、
・鉄道や航空機、会社や学校などのシート(椅子)、
の販売である。


 加えて、親会社から押し付けられる製品の販売も、断れずに売り捌かなければならない、辛い立場でもある。
 子会社にとって、親会社は、絶対的存在で、逆らうことの出来ない存在である。


 そして、その親会社に君臨する「徳山社長(北大路欣也)」は、
「午前様」
と呼ばれる、絶対君主であった。



<絶好調の営業第一課と地獄の第二課 そして八角係長>

 「東京建電」の営業を仕切る「北川部長(香川照之)」は、
強引な手法と威圧的な言動で、「鬼」と呼ばれる存在であった。


 その営業部の全体会議が開かれ、親会社から、
「次期社長」候補と言われる「梨田常務(鹿賀丈史)」が来て、
様子を見守る。


 そんな中、売り上げノルマを達成出来ない第二課は罵られ、
「原島課長(及川光博)」は追い詰められ、無理なノルマを宣言させられる。


 逆に、何期も連続で売り上げを伸ばしている第一課は、大いに褒められ、
「坂戸課長(片岡愛之助)」は誇らし気に肩を聳やかす。


 そんな激烈な会議の中にも拘わらず、
第一課の「八角(やすみ)係長(野村萬斎)」は、
いびきを立てて居眠りをする。
 しかし、「鬼」と呼ばれる「北川営業部長」は、叱責もせず、
関わろうとしない。


 そんなことも有り、社内では、
「グウタラ万年係長のハッカク(八角)に、
 北川部長は、何か弱みを握られているのだろう。
 でなければ、とっくにクビになっているはずなのに。」
と噂されている。

 実は、「北川営業部長」と「八角係長」は同期で、
出世争いをするライバルだった。



<坂戸営業第一課長の失脚>

 「東京建電のエース」と呼ばれ、若くして課長になった「坂戸課長」は、
グウタラな「八角係長」を厳しく叱責する。


 すると、「八角係長」は、「坂戸課長」をパワハラで訴え、
パワハラ検討委員会は、パワハラと認定し、
「坂戸課長」は、課長を降格され、人事部付きに左遷され、
社内は騒然となる。


 そして、第一課長の席には、「北川部長」に叱られ続けていた
第二営業課長だった「原島課長」が座ることになり、
本人も社内もビックリする。
 それも、「北川部長」の推薦だったと言う。



<事件の発生>

 「原島」を第一営業課長に据えての営業部の月例会議が開かれ、
「原島課長」になってからの営業成績が悪くなり、激しく叱責される。


 すると、「原島課長」は耐え切れず、会議室の隅のゴミ箱に吐く。
 その時、サポートで部屋に居た浜本優衣にハンカチを渡され、
口を拭う。
 そして、そのハンカチを返そうとして、「北川部長」に、
「返すな。洗ってから返すものだろう。」
と叱られ、会議室は笑いで満たされる。


 「原島課長」がよろめいて椅子に座ろうとした時、
パイプ椅子の脚を固定していたボルトが折れ、
「原島課長」は尻餅を着く。

 その時、「北川部長」と「八角係長」は、
厳しい眼差しで、折れたボルトを凝視する。



<ねじ六>

 「ねじ六」と言う、創業100年の歴史を誇る「ねじ製造会社」が有る。
 従業員はたったの10名ほどだが、その製造技術は高く評価されている。


 ところが、「東京建電」の元「坂戸課長」が来て、
とんでもない安い価格で、ボルトを作れと言う。
 4代目の「三沢社長(音尾琢真)」が、
 「それを行なうには、品質を下げないと出来ない。」
と断ると、今までの受注納入もストップされ、「ねじ六」は倒産の危機に陥る。



<第一の隠蔽>

 「坂戸課長」は、「トーメイテック」と言う新規会社にボルトの生産をさせるが、
そのボルトの強度は、本来必要な強度の半分ほどで、
この製品強度データ偽造の安い製品を作らせることで、
「坂戸課長」は業績をアップさせていたのである。
 そして、その事実は、
「ゼノックス」から派遣されている「村西副社長」以外の
上部(社長、副社長、北川営業部長)しか知っていなかった。


 しかし、それに気付いたのが「八角係長」であった。
 「八角係長」の訴えで、緊急対応を開くことになり、
親会社「ゼノックス」には知られたくないので、「村西副社長」は外し、
「宮野社長」や「北川部長」と「八角係長」は屋上で秘密会議を開く。


 「八角係長」は、
「人命に関わることなので、早急にリコールを発表すべき。」
と主張するが、「宮野社長」らは、
「そんなことをしたら、新幹線や日本中の電車が運行停止になる。
 日本のみならず海外路線の旅客機も飛べなくなる。
 そんな経済的損失と混乱を招くことは出来ない。」
「不良ボルトを使っている製品を闇回収し、
 正規の強度のボルトに交換させよう。」
「正確な販売先などを調査し、その後に、公表しよう。
 それまでに、2ケ月間必要だ。」
と、「八角係長」を宥める。



<ねじ六への再注文>

 「八角係長」が「ねじ六」を訪れ、
今まで以上に、各種の、大量のボルトの生産を頼む。
 それは、色々な製品に使われているボルトであった。
 「東京建電」は、信頼出来る「ねじ六」のボルトで、
「リコール隠し」の修理修繕を進めるのである。


 それに対して、不審と不安を持つ「三沢社長」だったが、
会社の倒産が免れる喜びで、深く追求しないことにし、
ボルトの生産を請け負い、従業員を呼び戻し、生産再開する。



<浜本優衣>

 営業部第一課に勤務する「浜本優衣」は、
経理部経理課の「新田課長代理(藤森慎吾)」に
仕事の悩みなどを相談する内に、不倫関係に陥る。


 「新田課長代理」は、
「俺には優衣しかいない。その内、離婚する。」
と逃げるばかりで、嫌になった「浜本優衣」は、
「坂戸課長」に退職願を出す。
 その時、課長に退職理由を訪ねられ、思わず、
「結婚します。寿退社です。」
と、嘘を言ってしまう。


 自分が嫌になった「浜本優衣」は、
「私は、この会社に不倫しか残せなかった。
 何かを残して会社を去りたい。」
と思い、ドーナツの無人販売を試行させてもらう。


 すると、ドーナツの美味しさに大繁盛し、
「浜本優衣」は嬉しくなる。


 そこで、正式な活動に認めてほしいと申請するが、
営業部を目の敵にする経理課「加茂田課長(春風亭昇太)」は、
「営業部のやることなんか、認可など出来るか。」
と、部下の「新田課長代理」を使い、邪魔をさせる。


 「新田課長代理」は、無人販売のドーナツを、
お金を箱に入れないで持って帰り、
「泥棒をするような人間が出る無人販売は認められない。」
と、正式認可を拒否する理由作りをしていたのである。



<経理課の追及と失敗>

 経理課にとって、不必要な経費の無駄遣いをする営業課は、
許し難い存在で、何とか遣り込めたいと粗捜しをしていた。


 そして、「坂戸課長」は「トーメイテック」の安いボルトを買ってたのに、
「原島課長」になってから、「ねじ六」から高いボルトを買うようになり、
月90万円以上、年間で2千万になるコスト高で損失を出していると気付く。


 営業部を叩ける理由を見付け、喜んだ経理部は、
「宮野社長」を交えた会議で、営業部の失敗を訴える。


 しかし、「北川部長」の猛反撃を喰らい、「宮野社長」も、
「営業部の取り組みは妥当なことで、口を挟むな。」
と「加茂田経理部長」は叱られてしまう。


 加えて、ドーナツ販売数のデータを見た「八角係長」から、
「ドーナツ泥棒は、水曜日に起きている。」
と教えられた「浜本優衣」が、陰に隠れて見張っていると、
「新田課長代理」がお金を払わずに持って帰る姿を見付け、
元恋人の情けない姿にすっかり幻滅し、
「不倫のことも、上司に報告する。」
と告げる。


 それに対して、土下座して不倫の報告を止めさせようとするが、
「浜本優衣」は許さず、結果、「新田課長代理」は地方に異動させられる。



<原島課長と浜本優衣の探偵ごっこ>

 みんなが休む暇もないほど働きまくっているのに、
「八角係長」は、毎月、平然と年次休暇を申請する。


 「原島営業第一課長」は、
「何でグウタラな八角係長が、20年間も係長として居られるのか?」
と疑問を抱き、人事記録を調べると、
「20年前は「Sランク」の最上級評価を受ける超優秀なエリート」
だったことが分かる。


 そこで、「原島課長」は「浜本優衣」と協力し、「八角係長」を尾行。
 すると、「八角係長」は、彼方此方を歩き回り、
「東京建電」製の家具の強度を確認したりしていることに気付く。

 また、ある時は、美人と会食をしている姿を見付ける。
 その行動の不思議さに、ますます疑念を覚える。
 この女性は、離婚した元妻「淑子(吉田羊)」である。


 その2人の行動に気付いた「八角係長」は、
「知らないでおくと言う権利を捨てる気か?」
と警告する。



<原島課長と浜本優衣の不正追及>

 「原島第一営業課長」は、
・自分がパイプ椅子を壊した時、みんなは笑っていたのに、
 「北川部長」と「八角係長」だけは、鋭く怖い目で、
 壊れたパイプ椅子を睨んでいたこと、
・「八角係長」が、「ねじ六」にボルトの発注先を変えたこと、
などから、ボルトに関わる不審なことが起きていると考え、
「浜本優衣」と一緒に、「トーメイテック」の「」江木社長」に面談し、
「坂戸課長から、格安のボルトを作るよう要請されたこと」
を聞き取る。


 そこで、2人は、「東京建電」の使う資材の全てを保存している
資材保管所に向かい、「トーメイテック」のボルトを見付け、
会社に戻り、検査室で強度分析を頼むと、
基準の半分の引っ張りで、ボルトが千切れた。


 唖然とする2人に、いつの間にか来ていた「八角係長」が、
データ偽造の事実を教えてくれた。



<再度の隠蔽と主犯の判明>

 データ偽造とリコールの発表を進言する「八角係長」に対して、
「宮野社長」は、
あくまでも「坂戸課長」の業績アップを狙う単独犯として、
自分の地位と「東京建電」の存続を守ろうとする。


 しかし、「八角係長」は、「宮野社長」と「トーメイテック」の「江木社長」が、
大学の野球部の先輩と後輩である関係を見つけ出し、
今回の不正の主犯は、「宮野社長」であることを洗い出す。



<20年前の不正>

 この「東京建電」の不正の体質は、20年前から続いており、
少しも変わっていないと感じた「八角係長」は、
今回のデータ偽造と共に、20年前に起きた不正を含めて、
親会社「ゼノックス」に告発状を送る。


 20年前の不正とは、現在の「ゼノックス」常務であり、
次期社長と、自他共に認めている「梨田常務」が、
建ち上がったばかりの「東京建電」の営業部長として出向して来て、
実績を挙げる為に、犯罪まがいの強引な販売を展開させた本人である。

 そして、強引な商売を命ぜられて、
・受け入れて出世したのが、「北川部長」で、
・拒否して、「梨田部長」に苛め抜かれたのが「八角係長」
だったのである。

 結果、売り上げが伸びて、表かされた「梨田営業部長」は、
親会社「ゼノックス」の幹部に採り上げられたのである。


 その一翼を担った「八角係長」も、
自殺者を出すような強引な手法で商売を行ない、
それを恥じた「八角係長」は、それ以降、仕事をしなくなり、
グウタラ万年係長に甘んじるようになったのである。

 そして、毎月取る年次休暇は、自分の所為で自殺した人の、
月命日での墓参りだったのである。



<御前会議>

 「八角係長」の告発状を受け、親会社「ゼノックス」で、
急遽、「御前会議」が開かれることとなった。


 その中で、「梨田常務」は、
・「宮野社長」の不正と隠蔽操作、
・「村西副社長」の監督不行き届き、
・「北川営業部長」の責任、
など、「東京建電」の幹部の責任を、厳しく指摘する。


 すると、正義感を持つ「村西副社長」は、
「実際に関わって、詳細を知る者を呼びます。」
と、「八角係長」を会議に招き入れる。


 招き入れられた「八角係長」は、
あくまでも「坂戸課長」の個人の犯罪と逃げる「宮野社長」に、
「宮野社長」と「江木社長」の偽メールを披露し、
「宮野社長」から、
「会社の為だった。」
との言葉を引き出す。


 加えて、
「皆さんの手元に配られた告発状に、
 今回のデータ偽造のことは書かれているのに、
 何で、20年前の不正のことは省かれているのか?」
「梨田常務が、自分の不利になる内容を削除させた。」
と追及し、「梨田常務」を追い詰める。


 そして、「徳山社長」に、
「強度不足の鉄道や飛行機に乗る乗客の命に関わることです。
 即座にリコールを発表してください。」
と願う「八角係長」だが、「徳山社長」は、
「検討するが、発表するとは言っていない。
 そして、この会議に、議事録は存在しない。」
と、会議を打ち切る。



<内部告発>

 その後、「八角係長」が会社の戻ると、自分のパソコンはおろか、
今回のデータ偽造に関する全ての証拠や書類などが持ち去られていた。

 驚く「八角係長」に、「原島課長」が、
「ゼノックス本社の連中が来て、アッと言う間に全てを持ち去った。」
と告げる。


 全てを奪われ、唖然とする「八角係長」に、「北川部長」が、
1本のボルトを渡す。

 そのボルトは、「八角係長」が「北川部長」にデータ偽造の証拠として、
「部長室」に持って行った時、怒りに、ボルトの入った箱を叩き付けたが、
その中の1本が、ソファーの下に転げて入った物であった。


 証拠を得た「八角係長」は、メディアに内部告発をし、
鉄道や飛行機が運行停止になる、世界を巻き込む大問題となる。

 そして、「東京建電」の「宮野社長」は特別背任罪に問われ、
親会社「ゼノックス」の「徳山社長」も、リコール隠しで追及される。



<その後>

 大騒動になったデータ偽造問題は、
・「東京建電」は、残務整理の為に営業第一課のみを残され、
 「原島課長」や「八角係長」は残り、
・他の業務は、新規に起ち上げされた同系会社に移行され、
 「村西副社長」が社長に就任、
・親会社「ゼノックス」の「徳山社長」は、何とか逃げ切り社長を続け、
・「梨田常務」は、20年前の責任で子会社に飛ばされ、
・「東京建電」の「宮野社長」は逮捕、
・「北川営業部長」は、退職し、実家のバラ園を手伝い、
・「朝倉優衣」は、退職し、パン屋に就職し、
 今も、「東京建電」のドーナツ無人販売にドーナツを納入、
と言うことになった。


 調査委員会で、
「今後の為に、どうしたらこう言うことを防げるか?」
と尋ねられた「八角係長」は、
「本気で聞いているのか?
 本気なら、話しましょう。
 偽装や不正は、決して無くならない。
 しかし、・・・・・・・・・・・」
と話し始めて、映画は終わる。



<小説と映画の違い>

 映画化されるに当たり、原作と映画が違ってくるのは当たり前だ。

 表全の方法だが、
 小説の方が、映像が無い分、描写を細かくして伝えようとする。

 例えば、小説では、
・会社「ねじ六」の描写だけで1章節、
・「朝倉優衣」の「寿退社」だけで1章節、
・「坂戸課長」の成育歴や家庭の事情でも多くのページ、
を使っている。

 逆に、映画では、映像の力で短時間で済ませている。


 粗筋でも、違いが出て来る。

 「坂戸課長」が不正を持ち掛けたのか、
 「トーメイテック」の「江木社長」が持ち掛けたのか、
 「宮野社長」の関りが有ったのか、
を追及する時に「八角係長」が作った偽メールの披露も、
小説では「江木社長」との面談で使ったが、
映画では、御前会議で使っている。

 また、小説では、「八角係長」は離婚しておらず、
「八角係長」の言動に、妻「淑子」は、呆れたり諦めたり。


 そんなわけで、小説は、細かな表現を楽しみ、
自分で情景を頭に描きながら読み進めて行く。

 映画は、俳優の演技の迫力や個性、表現を楽しみながら
鑑賞する。

 だから、この柵人に反しては、
どっちが良いとか悪いとか、別に言わなくても良いんじゃない。


 まあ、敢えて作品名は書かないけど、原作は素晴らしいのに、
映画は最低だったと言う作品も、実際に有るけどね。



 以上で、「七つの会議」の粗筋とネタバレを終わります。
 お付き合い、有り難うございました。