「迷宮」の粗筋とネタバレ


 芥川賞作家「中村文則」氏の書いた、
ミステリー小説「迷宮」の粗筋とネタバレを
書く。


 読んで行く内に、
「迷宮」は、
・「密室殺人事件」の捜査が「迷宮」化しただけでなく、
・関係する者たちの心が「迷宮」である、
ことに気付かされる。



 なお、この粗筋とネタバレは、本当に、
作者の意図や願いを踏み躙る粗筋とネタバレなので、
それを承知の上で、読んでもらいたい。

 それから、
本は返してしまい、記憶で書いているので、
細かな間違いが有るかも知れないので、
その時は、ご免なさいね。


 また、最後のネタバレを読むと、
人間の心の闇に、
・嫌な気持ちになったり、
・不安なきもちになったりする
人も居ると思うので、
ナイーブな気持ちを持っている人は、
読まない方が良いかも知れません。


 では。


<日置事件(折鶴事件)>

・1988年、
 東京都練馬区で、一家殺人事件が勃発。
・「日置剛史」(45)、
  妻  「由利」(39)、
  長男 太一(15)、
 が殺害され、
  長女(12)「紗奈江」は無事だった。
 と言う殺人事件が起きた。

・死因だが、
  夫と妻は、鋭利な刃物で刺殺されていて、
  長男「太一」は、毒を飲まされて死んだ。
 と思われる。

・夫「剛史」と長男「太一」には、
  激しい殴打を受けた跡が有り、
 監察の結果、
  左利きで、大きな拳を持つ人間が
  殴り付けたものと判明。
・その結果、外部の人間の犯行と思われた。

・長女「紗奈江」は、事件の最中は、
 何者かに外で渡された睡眠薬入りのビンを飲んで、
 寝ていたようだった。
 事件の一週間ほど前から、何者かが、
 子どもたちに睡眠薬入りのドリンクを渡し、
 数名の児童が飲んで、寝てしまう事件が発生。
 長女「紗奈江」も、それを飲んだと思われる。

・建物は、玄関も勝手口も窓も、全て施錠されていた。
 唯一、施錠されていなかったトイレの換気用窓は、
 跳ね上げ式の小窓で、小さな子どもしか通れないものだった。
・加えて、玄関のドアには、チェーンが掛けられていて、
 完全な、密室だった。

・妻「由利」は、全裸の状態で死んでおり、
 遺体を飾るように、312個の折鶴が
 掛けられていた。
 その為、「折鶴事件」の名前が付けられた。

・犯行現場のリビングのテーブルに、
  家族の物ではない指紋が2箇所、
  1本の毛髪が発見される。

・風呂場には、
 何かを燃やした跡が残っていたが、
 燃えカスは流されていて、
 何が燃やされたかは、分からなかった。

・監察の結果、長女「紗奈江」のパジャマには、
 精液が付着していたが、
 その精液は、兄「太一」の物と判明した。
・しかし、「紗奈江」の身体には、
 性的な被害の根拠は無かった。
 ただ、両肩を、強く掴まれた痕が残っていた。

・目覚めた長女「紗奈江」が、祖父に電話し、
 警察が駆け付け、玄関のドアを破り、入り、
 事件が発覚した。

・事件の一ヶ月後、
 近くに住む「渡利辺敦志」(25)が、
 重要参考人として事情聴取され、
  日置剛史と駅の構内で言い争ってたこと、
  児童たちが飲んだ同じ睡眠薬が部屋に有ったこと、
 が判明。
・しかし、
  指紋や毛髪のDNAが一致しないこと、
  建物内に入れた方法が判明しないこと
 などから、冤罪との批判も起き、
 起訴には至らなかった。

・そして、「迷宮」となった。


<新見と紗奈江>

・「新見」は、
 「加藤」法律事務所で働く34歳。
・昔は、司法試験を目指していたが、
 今は、その気持ちも失せ、
 マンネリで生きている。

・「新見」は、幼い頃、母親から捨てられ、
 孤独に生きる中で、別の人格「R」を作り、
 二人はデュエットのように生きて来た。
・しかし、今は、「R」は殆ど姿を消している。

・飲みに行ったバーで、
 「紗奈江」と名乗る女性と出会い、
 彼女のアパートに泊まり、肉体関係を結ぶ。

・「新見」は、「紗奈江」のアパートから出勤する時、
 壁に掛かっていた前の彼氏のスーツを、
 「紗奈江」から
  ”もう帰って来ないから、着て行けば。”
 と勧められ、着て行く。
・スーツは、「新見」の身体に合うサイズだった。

・そんな「新見」に、
 元刑事で今は探偵をしている男が近付き、
  ”謝礼を払うから、
   「紗奈江」の部屋のベランダに置いてある、
   大きなプランターの中を確認してほしい。”
  ”以前、「紗奈江」と付き合っていた男が、殺され、
   プランターの中に隠されているかも知れない。”
  ”「紗奈江」の前の彼氏は、
   或る組織に迷惑を掛け、逃げているので、
   確保したい。”
 と言う。

・そして、今は母方の姓を名乗っているが、
 「紗奈江」が「折鶴殺人事件」の生存者だと
 教える。
・また、
  ”貴方と偶然に出会ったように見せているが、
   「紗奈江」は、事前に貴方のことを調べ、
   意図的に近付いて行った。”
 と教える。

・そんな中、
 「紗奈江」の前の彼氏が「新見」に近付き、
 二人は、飲み屋で話し合う。
・そして、二人は、
 「紗奈江」にとって、似た雰囲気を持つ者だと
 確認する。

・「新見」は、トイレに行く振りをして、
 探偵に連絡し、彼氏は組織に連れ去られる。


<新見の調査>

・興味を持った「新見」は、
  「折鶴事件」担当の弁護士、
  「折鶴事件」を本にしようとしたジャーナリスト、
  長男「太一」を診ていた精神病院長、
 などを訪ね、探っていく。

・フリーライター「神崎カオル」は、
  ”殺された妻「由利」が、驚くほど美しく、
   今でも、殺されていた姿の写真が捨てられない。”
  ”娘「紗奈江」も、将来はどうなるだろうと思うほど、
   美しい少女だった。”
 と教えてくれる。

・精神病院長が見せてくれた、長男「太一」が書いた絵は、
 窓から覗いた絵だったが、その絵の配色は、
 家族が殺され、折鶴が撒き散らされた殺人現場と
 同じだったことに、驚く。
・そのことを警察に知らせたかと聞く「新見」に、
 院長は、
  ”求められなかったから観せていない。”
  ”聞かれた質問に答えただけだ。”
 と答える。
・「新見」が、
  ”自分が「太一」を治せなかった無能な医者と
   思われたくなかったからではないのか?”
 と責めるのに対して、院長は、
  ”これから、自分の為の薬を飲まなければ。”
 と、去って行く。


<紗奈江の告白(1) 新見との関係>

 「紗奈江」は、告白する。

・「紗奈江」は、精神的に異常だった兄の影響で、
 兄に似た、心に闇を持っていそうな人に惹かれ、
 中学校時代も高校時代も、捜し求めていた。

・大人になってもそう言う人に惹かれ、9人を見付け、
 興信所などを使って調べた結果、
 東京に住んでいるのは2人だけで、
 その1人が前の彼氏で、もう1人が「新見」で、
 出身校が一緒と言う偶然を装って近付き、
 関係を深めて行った。


<紗奈江の告白(2) 剛史と由利の関係>

 「紗奈江」が、一家殺人事件の真実を、
「新見」に語る。
 それは、「紗奈江」の心の深い闇から生まれたものだった。

・夫「日置剛史」は、ごく普通の平凡な人間だった。
 それに反して、妻「由利」は、驚くほど綺麗な女性だった。
・結果、「剛史」は、「由利」を強く愛し、毎日のように求め、
 浮気を心配し、「由利」の外出を嫌がるようになり、
  「由利」の外出用自転車を壊したり、
  家の、玄関や勝手口には、監視カメラを着けたり、
 するのだった。

・「剛史」は暴力的な男ではなく、
 妻に対してはとても優しく接していたので、
 自転車を壊す時も、防犯カメラを着ける時も、
 自分の気持ちを妻「由利」に説明し、了解を得て実行し、
 「由利」も、それを受け入れていた。

・表面的には夫に従順を装う妻「由利」だったが、
 夫からの束縛に耐えられなくなった「由利」は、
 人に頼んで、防犯カメラに工夫をする。
・それは、防犯カメラの映像は全く変わらないまま、
 映像に記録される日時だけが更新される工夫だった。
・これによって、「由利」がこっそり外出しても、
 映像には、「由利」の出入りが記録されないことになる。
・「由利」は、「太一」と「紗奈江」には、この工夫を教えてて、
 知らないのは、夫「剛史」だけになっていた。


<紗奈江の告白(3) 太一と紗奈江>

・精神的に病んで学校に行かなくなった「太一」は、
 性的な関心を高めて行く。

・「剛史」と「由利」が、1階の寝室に入ると、
 「太一」は、トイレと称して、1階に降りて行く。
・「紗奈江」の前で性器を出し、
 見せたり、「紗奈江」に触らせようとしたりする。
・そして、「紗奈江」の胸や性器を触るようになる。
 「紗奈江」も、次第に、それを受け入れてしまう。

・「太一」は、「紗奈江」に性交を要求するようになる。
 怖くなった「紗奈江」は、
  ”それ以上したら、お父さんとお母さんに言い付ける。”
 と拒否する。
・それによって、「太一」は、
 両親を邪魔な者と考えるようになる。

・「紗奈江」も、
 こんな歪んだ家族関係を壊したく思うようになる。


<紗奈江の告白(4) 紗奈江の願い>

・「紗奈江」は、誰かがこの家に入って来て、
 バランスを変えてくれることを願うようになり、
  みんなが寝静まった後、勝手口に行き、
   勝手口のドアを開け、閉まらないようにブロックを置き、
  朝、みんなが起きる前に勝手口に行き、
   ブロックを外し、ドアを閉め、ロックを掛ける。
 行動を続けていた。

・そして、数か月後、
 「紗奈江」が望んだように、大柄な男が侵入し、
 抵抗する夫「剛史」を、大きな拳で殴り付け、
 両親を縛り上げ、金品を奪って去って行ったのである。


<紗奈江の告白(5) 太一の行動>

・様子を見ていた「太一」は、
 強盗が去った後、手袋を填めて、包丁で両親を刺す。
 痩せている非力な「太一」は、何度も何度も刺す。
・そして、母「由利」を全裸にし、折り貯めていた「折鶴」を、
 母「由利」に降り掛け、折鶴で埋める。

・そこへ、強盗が戻って来たので、
 「太一」は、包丁を持って、強盗に向かって行く。
・しかし、体力差には勝てず、
 「太一」は強盗に思いっ切り殴られ、倒れる。
 強盗は、「太一」の持っていた包丁を持って、去って行く。


<紗奈江の告白(5) 紗奈江の行動>

・その様子を陰から観ていた「紗奈江」が1階に降りて行くと、
 「太一」は、性器を出して、
  ”これで邪魔者が居なくなった。しよう。”
 と迫り、逃げようとする「紗奈江」の両肩を掴んで来る。
・「紗奈江」に迫った「太一」だが、
 興奮のあまり射精してしまい、
 精液が「紗奈江」のパジャマに掛かってしまう。

・その後、「太一」は、「紗奈江」に、
  ”隠してあるビンを持って来て。”
 と頼む。
 ビンは2つ有って、
  1つは、変質者がくれた、睡眠薬入りのビン、
  もう1つは、
  何故か、母「由利」が隠し持ってた毒を移し替えた
  毒入りのビンで、
 「紗奈江」が渡したビンの液を飲んだ「太一」は、
 苦しみながら死んで行く。

・その姿を見た「紗奈江」は、
 父母を縛っていた紐(ひも)などの証拠品を風呂場で燃やし、
  燃え残った物は、外に持ち出し、
  廃屋となった工場のガラクタに隠し、
  燃えカスは、水に流し、
 証拠は何も残らなくなった。

・その後、「紗奈江」は、
 もう1つのビンの液体を飲み、2階で眠る。
・目覚めた時、1階の状態に変化が無いことを確認し、
 警察ではなく、祖父母宅に電話し、
 もう一度睡眠薬入りの液体を飲み、眠る。

・祖父母の連絡を受けた警察が、ドアを破り踏み込み、
 3人の遺体と、2階で眠る「紗奈江」を発見する。


<紗奈江の告白(6) その後の紗奈江>

・「紗奈江」に対するマスコミや警察の激しい追及からは、
 人権擁護団体などが守ってくれた。

・「紗奈江」は、祖父母に引き取られ、
 姓も、祖父母の姓を名乗り、生きて行く。
・最初は気付かれなかったが、
 「紗奈江」が「折鶴殺人事件」の生き残りと言う噂は、
 何度も出て来て、その度に転校するなどして生きて来た。

・その内、心を患った兄の面影を追うようになり、
 似たタイプの人間を、学校生活でも追い求めるようになった。
・そして、「新見」を見付け、意識的に近付いた。

・「新見」と生活するようになった「紗奈江」は、
  ”私を殺してくれたら、私の罪は消えるかな?”
 と、首を絞めてくれるよう頼んで来る。
 「紗奈江」の首を絞める「新見」だが、途中で止める。

・また、「紗奈江」は多量の睡眠薬を飲んで自殺を図り、
 「新見」は、死なせるか助けるか迷うが、
 「紗奈江」は、死なない程度の量を飲んでいることに気付き、
 救急の電話を掛ける。

・「紗奈江」は、
  ”私たちに子どもが生まれたら、
   誰か一人が居なくなることを願うようになるのかな?”
 とつぶやく。


 中段